4 / 217
Ⅰ 答えは『Yes』しか認めない④
非常にまずい。
まずい事になった。
大失態だ。
取引先のテレビ局で、とんでもない粗相をしてしまった。
(とにかく謝らないと!)
「すみません!クリーニング代は俺がもちます」
どうしよう。返事がない。
「あのっ、当たり前の事を言ってしまいすみません」
なんとか収拾しなければ。
よく考えろ。
ここは取引先だ。
直接関係がある訳ではないが、横の繋がりというものがある。俺のせいで企画が飛んでしまっては皆に迷惑がかかる。この企画は会社の皆、全員で作ってるんだ。
「……『俺のせいで』とかって考えてる?」
「えっ」
なんで分かった?
顔に出ていた?
(でも俺は、ずっと頭を下げている)
表情は見えない筈だけど……
「『なんで分かった?』……って思ったんだろう」
「どうして」
「こういう仕事をしていると、少しの声のトーンの変化で、相手の心理を読み取る事ができる」
「えっ」
顔を上げた瞬間。
首筋を捕らえられた。
「『明里 優斗 』……本名か」
長い指が身分証を引っかけている。
「当たり前でしょう」
身分証を偽造したら犯罪だ。
「あなたの身分証だって偽物じゃないでしょう」
「違いない」
当然だ。
身分を証明する物に偽名を使える訳がない。
彼の身分証の名前だって例外ではない。
『真川 尋 』
へぇー、役者みたいな名前。
整った顔立ちで品もある。態度は横柄だが、日頃の行いに問題なければ性格は関係ないだろう。
役者でもおかしくない。
(テレビに出てそうだよな)
………………テレビ。
真川 尋。
「さながわ……じん」
真川……
どこかで聞いた事ような……
「さながわ!」
……って。
「『特命!Nightジャーナル』!」
あぐあぐ
ぱくぱく
声が出てこない。
あぐあぐ
ぱくぱく
「局長の真川 尋!!」
ともだちにシェアしよう!