7 / 217

Ⅰ 答えは『Yes』しか認めない⑦

独自の視点で政治に鋭いメスを入れる、新進気鋭の若手政治評論家・真川尋。 分かりやすいニュース解説でも定評があり『特命!Nightジャーナル』という冠番組を持つ彼の支持層は広い。 通りで聞いた事のある声だ。 顔だって毎週テレビで見ている。 (どうして気づかなかった?) 今まで。 彼を『彼』だと。 口調も、髪型も、雰囲気も、まるで違っているから。 先入観というやつだ。 でも、それだけじゃない。 (寧ろ偽りもない。飾ろうともしない) 素の彼だから…… 誰も知らない素顔と、テレビの中の『彼』が結びつく筈がない。 「君とは初対面なんだが呼び捨てか」 「すみません」 テレビの印象とはだいぶ違う。 真川……さんは、物腰柔らかくて丁寧な口調で知られてるんだけど。 「別に。そうした方が政治家の古狸どもの本音を読み取れるからな」 「また心理を読んだ!」 「違う。君が呟いていた。心の声が駄々漏れだ」 「あっ」 恥ずかしい。 「重ね重ね失礼を申し訳ございません」 「全くだ」 そんな言い方しなくても…… 「それで、この上着なんだが」 「責任持って染み抜きします」 「今から取材なんだ。スーツを着なければ仕事ができない」 「そうなんですか」 「 君は、私が夜のニュースを読んでいるだけの仕事をしているとでも思っているのか」 「すみません」 「別に謝らなくていい。実際、誰かに取材させて、()も自分が足を運び、見て聞いて考えたように喋る奴もいる」 「真川……さんは真面目なんですね」 「悪いか」 「悪くありません!ただ態度が横柄で、自分からぶつかってきたのに謝りもしないから」 「それが君の本音か」 「あっ!」 俺はなんて事を口にしてしまったんだァッ! 相手は天下のジャーナリスト 「真川 尋にィィィ~!!」 「また呼び捨てた」 「すみませんっ」

ともだちにシェアしよう!