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Ⅰ 答えは『Yes』しか認めない⑨
「スーツは弁償しま」
「要らないと言った」
「染み抜き」
「必要ない」
「じゃあ、どうすれば」
「俺に謝りたいんだろう」
「……ごめんなさい」
「言葉だけの謝罪も要らない」
この人はなにがしたいんだ。
「『要らない』ばかり言われては謝りようがありません」
「謝罪は要らない。君は償ってくれればいいんだ」
このスーツの染みの分を……
クイっと。
顎を持ち上げられた瞬間。
たった、それだけで。距離がぐっと縮まって。縮められた気がして……
(あっ)
瞳に映る赤い火は、夕日の色をしている。この人の宵闇色の双眸には、空を焦がす朱の光が灯っている。
「君の人生の時間で」
どういうことか……
考える暇(いとま)も与えられなかった。
ふわり……
鼻孔をついたのは、柔らかくも刺激的なフレグランス。
真川さんの香水……
「君の人生を貰いたい」
俺は抱きすくめられている。
この人の腕の中に。
「答えは『Yes』しか認めない」
これじゃあ……
これじゃあ、まるで……
プロポーズ!!
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