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Ⅲ これは恋なんかじゃない!⑤

真川さんの掌に頬を包まれている。 でも、話してくれない。なにも。 『一方的に話す』と言ったのに。沈黙の瞳が俺を見つめるだけで、あなたはなにも話さない。 「あのっ」 ドキンッ 左胸の鼓動まで瞳に絡め取られる。ドキドキ、ドキドキ、胸を穿つ音が鳴りやまない。 「真川さ……」 「俺が一方的に話すと言っただろう」 「でも、あなたは」 「もう少し、このままで」 頬を包む手があたたかくて…… だけど、俺の頬はあなたの手よりも熱くて…… 心臓の音がうるさい。 宵闇の目の中に俺がいる。 あなたの瞳を、俺が独占している。 「悪かった。変な顔にさせてしまって」 「あのっ」 「まだ喋るな。俺が喋っている」 「はい……」 有無を言わせぬ瞳の圧は、あなたがΩだからか。 一度開いた口は、このまま言葉を紡ぐのかと思ったが沈黙してしまう。 俺を見つめる宵闇に囚われて、俺はどうすればいいの? 「口、半開きだぞ」 「あっ」 はむん! 「そんなにぎゅっと閉じなくても……唇がなくなってしまうぞ」 「そうやって、また俺をからかうんですか。変な顔だって」 「変な顔じゃないと言ったろう」 「でも」 「でも?なに?」 「あなたは変な顔だと言いました」 「言ったよ」 認めた。 「やっぱり、俺を!」 からかってるんだ。

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