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Ⅴ 仕事に行かないなんて言わせない⑧
わ!
……わ?
「わわわーっ」
この手が俺の頬に触れる……
(綺麗な手が)
刹那、目の前で立ち止まると、ひらりと俺の視線をかわした 手は急降下した。
「いつまで、こんな床の上に座ってるのかな」
腕を持ち上げて、引っ張り上げる。
「君が汚れてしまう」
「葛城さんの手……」
俺を強く握って、立ち上がらせてくれてる。
「ん?手がどうかしたかい」
「あ、いえっ」
葛城さんの手がまだ俺の腕を握ってくれている。
俺を起こしてくれたのは葛城さんの手で……だから。不自然じゃないけど、不思議な気持ちだ。
「ありがとうございます」
「うん」
お礼を言ったけれど、離してくれない。
(振りほどくのは……失礼だよな)
「君が逃げないように、こうしてるんだよ」
「あの、なにか言いましたか」
「なにも言ってないよ」
琥珀の瞳がふわりと微笑んだ。
「そんなことより……」
えっ!
……えっ?
「えええーっ」
「飯、行こうか」
この展開で、飯ィィィ~!?
「この時間までここにいたって事は昼ご飯まだだろう」
「まだ……ですけど」
「君に断る理由はないよ」
「ですが」
「君を……」
ふわりと。
吐息が耳孔をくすぐった。
「逃がさないように、手を繋いでいるんだよ」
今度ははっきりと聞こえた。
「おや、顔が真っ赤だ」
……可愛いよ。
まるで吐息で口づけるみたいに。
声がダイレクトに鼓膜に届く。
「いい子の返事は一つだよ」
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