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Ⅵ 《おまけ+》3倍しろォォォー!【THE FINAL③】
「お客様、お席にお戻りください」
ほら。
あなたが席になかなか帰らないから、お連れの方がこちらをチラチラ心配そうにうかがってるぞ。
「明里君!」
あ、ほわほわオーラが甦った。
「しかし困ったな」
睫毛を伏せた顔。おもむろに眉間に皺が刻まれる。
「ボッキ貝定食も、旬のボッキ定食も売り切れか……」
「最初からありません!」
「困った。注文が決まらない」
困ってるのは僕の方だ。
「ぷり鮭定食でいいでしょう」
「もう明里君が頼んでるよ」
「同じ物を仲良く食べればいいんです。話も盛り上がりますよ」
「確かにそうだ」
「ね!」
葛城さんには、さっさとぷり鮭を頼んでもらって早々に自分の席へお戻り願おう。
「しかし、それでは……」
どうしたんだろう。
不意に瞳の琥珀が、切なげな陰を落とした。
「葛城さん?」
「いや、すまない」
「『すまない』では分かりません」
こんなにも悲しそうな葛城さんを見た事がない。
「僕では力になれませんか」
「だが」
葛城さんが逡巡する。
「僕のようなβでは、能力であなたのようなαの方には遠く及びません。けれど、話を聞く事くらいはできます」
困っている人を見過ごす事はできないよ。
「ありがとう」
偽りではない。
取り繕う笑顔じゃなくて、信頼を向けてくれた微笑みに、俺は安心した。
(言って良かった)
拒絶されたらどうしようと思った。
葛城さんは、人の気持ちを無下にする人じゃない。
(ほんとうは、心の底は優しい魔王だ)
「実はね……」
形良い唇がふわりと開いた。
「勃起がおさまらない」
「………」
「………」
「………」
「………」
…………………………は?
「ここに来るまで明里君とずっと手を繋いでいたから、勃起がおさまらないんだ」
「………」
「………」
「………」
「………」
ボッキ貝定食……
旬のボッキ定食……
今までずっと『ボッキ』にこだわっていた理由がこれか。
(怒ってはいけない)
怒るな、僕よ。
αは己が性器に国士無双の自信を持っている。
(葛城さんが悪いのではない)
これはαの習性だ。
形を変え、強健な姿に変異し、天を仰ぐ猛々しき股間は、唯一無二のαの誇りであるのだ。
「股間の勇者が昂るよ」
(怒るな……怒るな……怒るな……)
葛城さんは悪くない……
葛城さんは悪くない……
葛城さんは悪くない……
「『股ぐらのKING 』!!」
…………………………は?
「私には、この呼称こそ相応しいね」
「なんでもいいわーッ」
堪忍袋の緒が切れるぞ。
「……お客様~、ご注文は~」
「ぼたんえび丼」
あっさり決めた。
「『ボ』が付くから、これで妥協しよう」
「………」
αの習性が分からなーい!!
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