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Ⅵ 《おまけ+》3倍しろォォォー!【THE FINAL④】
「ぷり鮭定食、お待たせしましたー」
ようやく、あの人が席に戻ってくれたので、僕もやっと本来の職務に復帰できる。
オーダーを確認し、そして僕はあの人の座る5番テーブルに膳を運ぶ。
「俺です」
手を挙げてくれた彼の前に膳を置いた。ほんとう、この子はいい笑顔をする。
(ぷり鮭が好きなんだなぁ)
「はい。熱いので気をつけてくださいね」
銀やの看板メニューを心から愛してくれて、僕も嬉しい。
「それと……」
ボッキ貝定食でもない。
旬のボッキ定食でもない。
王子様の食すらしいイタリアンでもないけれど。
「ぼたんえび丼です」
葛城さんも足しげく通ってくれているお客様だ。
この人はこの人なりに銀やを愛してくれているんだ。きっと。
(思考が読めないのはαのせい)
……という事にしておこう。
「ご注文は以上でよろしいですか」
頷いた二人に僕はテーブルを後にする。
(葛城さんが、あの子をそばに置きたい気持ち分かる気がするなぁ)
気持ちが安らぐ。
αという常に強靭なオーラをまとう事を宿命づけられた人には、ああいう子が必要なのかも知れない。
「はい、あーん」
……って~~~
煩悩まみれか、エロ魔王α~~~♠
「あ。三谷君」
魔王は王子様の仮面をまとって、サッと左手を挙げた。
呼ばれている以上、如何なる状況下であろうとも駆け付けるのが、銀やフロアスタッフの使命だ。
「食後にバニラアイスを二つ、追加をお願いするよ」
「葛城さん?」
あの子が戸惑っている。
「ここのアイス、お勧めだよ。少し溶けて柔らかくなったのを食べるのが美味しいんだ。食べるのは初めて?」
「はい。俺、テイクアウトがほとんどだから」
「じゃあ、一緒に食べよう。君のお口のまわりが白くトロトロに汚れたら、私が拭いてあげるから安心しなさい」
「俺、子供じゃありませんよ」
「知ってるよ」
琥珀の瞳が涼やかに微笑んだ。
「君をエスコートするのは、私の役目だよ」
(違う!)
僕は知っている。
(これはエスコートなんかじゃない)
あの子からは見えていないだろうが、あの人はッ
(テーブルの下で勃起してるんだ!)
銀やのアイスで卑猥な妄想を膨らませるなァァァッ!!
エロ魔王α!!
「…………ご注文は以上で?」
「あっ、すみません。三谷さん」
ペコリとあの子が頭を下げた。
あなたは悪くないよ。
悪いのはあなたの目の前にいるエロ魔王αだから。
……僕、さっきからずっとオーダー待ちでスタンバってたんだけど。
(完全に眼中にない……)
蚊帳の外だ。
(この人は気遣いができるようで、本当は自分の興味あるもの以外は無関心)
全部どうでもいいんだ。
だから……
「うん、バニラアイス二つ。頼むよ、三谷君」
(違う!)
「何度も足を運んで頂いてすみません。三谷さん」
(違う!)
僕は『三谷』じゃない。
銀やでバイトを始めて3年。
葛城さんが店に通い出して2年。
この2年の月日。
僕はいまだ、彼から正しい名前で呼ばれた事が一度もない。
(僕は『三谷』なんて名前じゃない)
3倍しろォォォォォー!!!
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