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Ⅶ αの瞳には騙されない①
「大丈夫」
フゥっと柔らかな吐息を唇に乗せて、琥珀の奥で微笑む。
「君が食べようとしたところで、箸を引っ込めたりする意地悪はしないよ」
ぼたんえびを乗せた箸が迫ってくる。
「ほら。お口を開けて……あーん」
葛城さん……この状況が意地悪です。
「私の摂待は受けられないかな」
「そうじゃないです」
「なら、受けてくれるね。誠意を込めた君への感謝の気持ちだよ」
そう言われると心苦しい。
(葛城さんは日頃の労を労ってくれている)
頼り甲斐があって、優しい人だから。
取引先の俺にも気遣いを忘れない。
(葛城さんはいい人だ)
断るなんて失礼だ。
葛城さんのお心配りを無下にはできない。
(Ωは度胸だ!)
………………あーん。
ぱくっ。
「美味しいかい?」
ううう~
恥ずかしい。
味なんて分からないよぅ~
「たぶん美味しい……と思います」
「思います……か」
微笑みの陰に、腑に落ちない面持ちがふと浮かぶ。
「なら、もう一口食べようか」
「えぇぇぇーッ」
「君から『美味しい』の言葉を聞きたいよ」
「わわわッ」
ダメ、ダメ!
絶対ダメだァッ
心臓がもたない!
「ぷり鮭が食べられなくなりますからっ」
「そうかい?残念」
箸を置いた葛城さんだけど、口許が笑ってないか?
あっ。今、ププって。吹いた。
(葛城さんにからかわれた!)
俺ってば恥ずかしい。
葛城さん、ひどい。
真っ赤な顔を悟られないように、茶碗のご飯をいっぱい頬張る。
こほっ
ごほっ、ごほっ
「こらこら。かき込むものではないよ」
トントントン
素早く立ち上がった葛城さんが、背中を叩いてくれる。
「味わって食べなくちゃ」
(うぅぅ~……誰のせいで~)
「大丈夫かい?……はい、お茶だ」
俺ってば恥ずかしい。
お茶の味も分からない。
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