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Ⅷ 君には渡さない①

トンネルを抜けると暴風雨であった。 これは天災か、人災か。 予測不能だ…… 俺の運命が今、真っ暗闇のトンネルから抜け出したとしたら、ここは暴風雨だ。 運命が思わぬ方向に進んでいる。αの暴挙に、俺は為す術なく立ち尽くす。 葛城さんは、俺を心配してくれている。 葛城さんは、俺を気遣ってくれている。 俺に怖い思いをさせないように、俺を守る手段を講じてくれている。 でも! (名字が風前の灯火だ) いま、俺の名字が消えようとしている。 このままでは『葛城』姓になってしまう! 名字が変わるという事は、生涯を左右する。いわば一生の問題なのだ。 けけけ…… 結婚!! 俺が葛城さんと、けっこォォォーんッ!! まだ早い。 俺に結婚は早すぎる。 アラサーの29だけども! デートとか、キスとか……そのっ、経験のないまま結婚は早すぎる! キス……の次は…… (結婚したら葛城さんと……) 早すぎるからァァァーッ ベッドでするのは腕枕だ。そう腕枕だからなっ……スーハースーハー……落ち着け、俺。スーハースーハー。 (なにか良い手を考えなければ) トゥルルー、トゥルルー (葛城さんは、俺が不安にならないように配慮してくれている) 優しい人だ。 トゥルルー、トゥルルー (その気持ちを傷つけないよう、当たり障りなくお断りする方法は……) トゥルルー、トゥルルー (なにかないのか) トゥルルー、トゥルルー ……って。 さっきからうるさいぞ、携帯。 全然、集中できない。 誰だ?しつこく掛けてくるのは。 「………………真川さん」 ディスプレイに表示されている。 『真川尋』の文字。 なぜ、真川さんが俺の番号知ってるのだろう? 今はそんな事どうでもいい。 真川はαだから。 なんでもできちゃうんだ。きっと。 今日出会ったばかりの人に相談なんておこがましい。 (でも……) 話すくらいなら。 話くらいなら、真川さんは聞いてくれるかも知れない。 「もしもし、真川さん」 この電話、取るべきだったのか。 それとも取らない方が良かったのか…… もう神様しか分からない。 心臓の音、凍っていくのを意識の淵で感じた。 直感が悪寒となって背筋を走った。 三秒の沈黙

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