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Ⅷ 君には渡さない③
声は、真川さんじゃない。
けれど着信は真川さんだ。この声の主は、真川さんの携帯を使って電話を掛けている。
(真川さんの身に何かあった)
「誰だッ!真川さんは無事なのかッ!」
『騒ぐな』
受話口から声がズンッと響いた。
『第一の質問には答えない。当然だろう』
声が嘲る。
『第二の質問』
携帯を固く握った。
『これにはYesと答えよう』
良かった。
(真川さんは無事だ)
ほっと胸を撫で下ろす。
『だが』
受話口で声は低く突き刺さった。
『これからの身の安全はお前次第だ』
「どういう事だ」
『今からいう場所に一人で来い。時間は19時』
「そんな手に乗ると思うか」
『来るも来ないもお前の勝手だ。こちらは選択肢を与えている。真川を無事帰すか、それとも……
だがお前が来ないのであれば、これ以上の交渉は無駄だ』
「待てッ」
とっさに携帯を握りしめていた。
俺ひとり
握り返してくれる温もりは、ない。
「どこだ。どこに行けばいい」
どこに行けば真川さんに会えるんだ。
『今から言う。他言は無用だ。話せばどうなるか分かるな?』
「一人で行く。だからッ」
真川さんに会わせてくれ……
「真川さんの無事を保障しろ」
受話器の向こうで、零れた息が笑った。
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