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Ⅷ 君には渡さない④

仕事を少し早上がりさせてもらった。 今日は私用があってすみません。……って。 本当の事は言わずに。 いつも忙しい職場だから、課長にも皆にもありがとうって思う。 手早く身仕度を整えて、俺は指定された場所へ向かう。 葛城さんにも言ってない。 (ごめんなさい) 困った事があればいつでも力になる。……って、言ってくれて、心配性で、優しくて、俺の事をいつも気に掛けてくれている葛城さんに何も言わない俺は、酷い人間だよな。 でも…… (ごめんなさい) 帰ったら、いっぱい謝ります。 だから、どうか…… (真川さんを救い出させてください) この犯行は何かがおかしい。 (身代金の要求がない) 誘拐といえば身代金だろう。 俺に1億を払う経済力なんてないけれど。 しかし真川さんならば1億どころか、2億、3億だって要求されてもおかしくない。 犯人にとって金銭はどうでもいいという事か。 真川さんそのものの価値を犯人は利用したい? 真川さんは政治ジャーナリストだ。 これは国家への犯行声明。 いや…… (それなら国会議員だろう) 狙うのは、国政を担う中枢だ。 では、ほかの理由とは? 裏の裏を読め。 犯人の動機はなんだ? 真川さんへの怨恨。 (それとも) 真川さんほどの有名な人に何かがあれば、全国に報道される。そこで何かを訴えたいのか。この国に。 あるいは、ただの愉快犯。 なんだっていい! 今は何も考えるな。真川さんの救出に集中しろ! もうすぐだ。 もうすぐ、犯人の指定してきた場所に着く。 (あの交差点が青に変わったら……) 走りだそう。 犯人は既にどこかで俺の行動を見張っているかも知れない。 撹乱するんだ。 (変わった) 歩行者信号が青だ。 人混みを縫って走る。 指定された場所は、目と鼻の先だ。 交差点を抜けて、左。 そこの三差路を通り抜けて右だ。 (ここ!) …………………………え。 「ここ……」 犯行現場は人気のない港の倉庫か、廃墟の工場だと相場が決まっている。 なのに…… 「ここ……」 例え都心だって、存在しなければならない。 廃墟の工場。 しかし、ここは…… 港の倉庫でもなければ、廃墟の工場跡地でもない。 「ここってェェェーッ!」 キラキラ、キラキラ 華やかなネオンが眩しいよ。 「五ツ星帝都ホテルじゃないかァァァーッ!!」

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