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Ⅷ 君には渡さない⑫

『受付を済ませてくる。すぐに戻るから、君はここにいてくれ』 そう残して、真川さんが去ってから暫くたつ。 『君は私の助手という事で話を通してみるよ』 少し強引なやり口ではあるにせよ、ほかにいい口実が思い付かない。 大事なところで、俺は真川さんに頼りっぱなしだ。 (『助手』なんて名目だけど、全然役に立ってないよ……俺) 先程から全く真川さんが帰る気配がないのは、どうやら捕まってしまったらしい。 真川さんくらいの名の通ったジャーナリストになると、挨拶も大変なのだろう。 名前は分からないけれど、議員の方や秘書らしい人達と挨拶して談笑している。 礼儀正しい政治ジャーナリスト・真川尋の顔で、穏やかに笑っている。 (テレビで見ている真川さんだ) こっちの方が見慣れている筈なのに。 どこか遠く感じた。 俺は…… 寂しいのだろうか。 不安なのだろうか。 チラチラ、こちらを見て真川さんが気遣ってくれているけれど。 俺は笑って「大丈夫」だと、唇の形で答えるだけだ。 作り笑いして…… ほんとは、場の空気に飲まれて緊張して、心細くて仕方ないのに。 でも。真川さんに駆け寄る事もできないでいる。 『助手』なのだから、上手く空気を読んであの輪の中に入って構わない筈なのだけど…… 本当の『助手』じゃないから。 真川さんの足を引っ張ってしまうかも知れない。 そんな思いがよぎって、弱気に支配された思考では、足を引っ張ってしまう予感しか考えられなくなって、俺は離れて遠くから、あの人を眺める事しかできない。 (役に立ちたいなんて、思う事自体が贅沢なのかな) 俺はΩで、あの人はα αがΩなんかを頼りにするわけないよ…… (あの人は完璧だ) ほんとは、傍で話す事さえできない存在なんだから。 今の状況だけでも奇跡だ。 (αのあの人が、俺を心配して。俺を気遣ってくれるなんて) あり得ない現実なんだから。 ΩはΩらしく…… あの人の仕事の邪魔しないように…… 「わっ!」 思わず悲鳴に似た声が突いて出た。 誰かにぶつかった。 (俺がこんな所でぼーっと立ってるから) あれだけ気を付けろと真川さんに言われたじゃないか。 俺は言われた事も守れない。 何もできなくて、そればかりか、どうして、あの人の足を引っ張ってしまうんだ。 床が眼前に迫る。 とっさの事で受け身がとれない。 (せめてっ) 声だけは上げないように倒れないと。 (あの人の……) 真川さんの邪魔にならないように。 (おおごとにならないように) 痛くても、絶対悲鳴を上げちゃいけない。 それくらいできるだろ。 俺は、あの人の……

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