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Ⅸ君には渡さないpartⅡ ⑬
オオッと場内がどよめいた。
「ニ百万」
グレーのスーツを着た男の指が天井を指した。
「二百五十万」
「三百」
「三百五十」
「四百だ」
次々に会場の男達の手が挙がる。
「五百万」
再びどよめきが起こった。
一般人には到底無縁の額が、会場の至る所から飛び交う。
まるで日用品を買うかのように。
男達が競り合う。
紛れもない。
ターゲットは……
(俺!)
『夜の帳』とは、Ωを競売にかけるオークションだ。
公然の場で、国の舵取りをする政治家たちが人身売買を行っている。
恐らく、落札金の一部が運営に流れているんだ。
人身売買オークションを運営しているのは、この勉強会の主催者。
(諏訪会長)
落札金が、諏訪会長の政治資金になっている。
(真川さんの言っていた黒い噂は、このオークションの事だったんだ)
「六百万」
巻き起こるどよめきに、ハッと脳裏が冷めていく。
「七百万」
「七百五十万だ」
どんどん金額が吊り上がっていく。
俺なんかじゃ手出しのできない額に。
止められない。
俺は、このオークションを。
(ターゲットは俺なのに)
何もできない。当事者なのに、静観する事しかできずに、成り行きに身を任せるだけで……
(このままじゃ、俺がどこの誰とも知れない男に売られてしまう)
何とかしなければ!
何を?
どうすればいい。
(このオークションを止めてくれる人)
司会者はダメだ。
最初に手を挙げた男だ。
俺に政治家の知り合いなんていない。
(でも探さないと)
泣き言は後だ。
真川さんがいない以上、俺自身がどうにかするしか、助かる術はない。
(真川さんが挨拶していた人)
直接の繋がりはないけれど、一縷の望みを賭ける。
しかし。
(いない……)
オークションが始まると同時に、退出してしまったのだろうか。
「七百八十万」
「七百九十」
「八百万」
「八百二十」
金額が上がっていくのを止められない。
会場の真ん中で、男の袖が上がった。
振り上げた腕。沈黙の拳が開く。
人差し指が一本。
天井を指した。
「一千万円ですね」
壇上のマイクから司会者の声が響いた。
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