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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない⑦
「真川さん!」
だめだ、絶対!
(俺のせいで、真川さんがジャーナリストを辞めなくちゃいけないなんて)
「お願いです。そんな条件、飲まないでくださいっ。そこまでして、俺は」
「君を守りたい」
俺は、あなたに無茶してまで守られたくない。守ってほしくない。俺じゃ、あなたを守れない。
守りたいのに……
「嫌です。考え直してください」
「答えは同じだ。君を守るのが俺の義務だ。君は俺の婚約者だろう」
どうして。
こんな時も、そんな嘘つくんだろう。
(俺は、どうして……)
胸がジクンジクン痛むのだろう。
守ると言ってくれた人なのに……
「そこまで覚悟があるならば、好きにするといい」
「待ってください!」
「Ωに拒否権はないと言った筈だ」
圧倒的なαの威圧に飲まれて、息が止まる。
俺が、真川さんを止めなくちゃいけないのにッ。
「無論、選択肢も与えない」
冷酷な視線が、床に伏して倒れる俺に注がれる。
(なんで。Ωなんだ)
Ωじゃ、あなたを守れない。
「勉強会の裏で行われているオークションを、君が公表しようと構わない。だが」
冷酷な双眼が光った。
「君にも相応の報いは背負ってもらおう」
ハラリ、と……
額に一筋の黒髪が落ちた。
「君の婚約者は一億で落札された。『真川尋はなぜ、危険なオークション会場に婚約者を連れて行ったのか』……世間は糾弾するだろう」
「勧修寺先生!」
この冷たい瞳の男は何を考えているんだ。
「私が情報操作する。簡単な事だ。世間は正義なんか求めていない。面白おかしいゴシップに食いつくものだ」
夜の闇が不敵に揺らめく。
「清廉潔白な真川尋ともなれば、尚の事……」
(そんな)
「民意とはそういうものだ」
(真川さんは……)
「残酷だな」
言葉に灯る感情は真実なのか。偽りなのか。
「真川尋。世の中すべてが、君の敵になる」
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