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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない⑨

 真川さん…… (そうだ)  最初から、こうすれば良かった。  ハアハアハァ  上手く紡げない呼吸の中で、あなたを見つめた。あなたの名前を呼ばずとも、あなたは気づいてくれた。 (受け止めてください)  これが唯一、あなたから枷を外す方法です。 「勧修寺先生と一緒に行きます」  これで、もう……  あなたを縛るものは何もありません。 (俺、助手として)  許嫁として。 (最後くらい、あなたを助けられたかな?)  嘘つきは、俺も同じだ。 (嘘のフィアンセだけど)  少しだけでも、あなたに気持ちが届いたらいいな。  ほんとうの気持ち…… 「優斗!」  怒りとも、苦しみとも取れない色が滲む。  あなたを失望させてしまった。 (でも、こうするのが一番いい)  Ωのせいで道を踏み外さないでほしい。  踏み外すなんて、馬鹿げている。  Ωなんかの……  社会の底辺のΩなんかのために。 (あなたが、ジャーナリストを辞めてはだめだ) 「往生際が悪いですよ」  声に、俺は付いていく。あなたに背を向けて。  大した力も込められない腕で、俺はあなたと違う人の手を握った。 「私はこのΩに、君と同じ値を付けた。価値を認めたのだから、これ以上の望みはないでしょう」  そうか……  俺は一億円で買われる。  法外な額だというのは、俺にでも分かる。  真川さんは、一億を出しても俺を守ろうとしてくれた。  俺に触れさせまいとしてくれたんだ。  とっても贅沢だ。 (これ以上、望む事はない)  ありがとう、真川さん。 「優斗!」  ごめんなさい、真川さん。 「行きましょう」 「はい……」

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