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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない⑩
「どうした?」
立ち止まった俺に、勧修寺先生が声を掛けた。
決めた事なのに、足が動かない。
「発情期で辛いか。私がおぶってやってもいい」
勧修寺先生がこんな事を言うなんて意外だ。
先生は俺の答えを待っている。無理に腕を引っ張ったりはしない。俺が出した答えだ。俺自身で実行しなきゃ……
「大丈夫です」
俺、自分自身に言い聞かせてる。
「すみませんでした」
踏み出した歩みは、もう止める事ができない。
一歩、また一歩。真川さんが遠ざかっていく。背後で真川さんはどんな顔をしてるんだろう。
(そう考えてしまうのは未練だ)
あなたへの未練を断ち切らないと。
俺は、もう……
カツン
不意に歩みが止まった。
止めたのは俺じゃない。
歩みを止めたのは、勧修寺先生。
神妙な面持ちが食い入るように、目の前の扉を見据える。
重い扉がゆっくりと開いていく。
勧修寺先生の表情が険しい。
(扉を開けたのは、先生じゃない?)
じゃあ、一体誰が……
重厚な扉が今、ゆっくりと開いた。
光差す向こう側に立つ長身の影。
(この人が、扉を……)
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