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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない11
(誰……)
遠目でもパッと分かる上質なスーツを着ている。けれどその雰囲気は議員じゃない。
上手く言えないけれど、まとうオーラが違うんだ。
議員・閣僚の肩書きがなくとも、この人には気品と威厳がある。
年齢は分からない。けれど若いと思う。
(真川さんと同じくらいだろうか)
赤みを帯びた髪を、後ろで一つに結っている。
(顔は……)
ドキンッ
心臓の音を持っていかれた。
(いま、目が合った)
そんな筈はない。
だって、彼は仮面をしている。羽の付いた派手な仮面だ。
だから、視線が合ったなんていうのは俺の錯覚だ。きっと。
でも……
ドキンッ、ドキンッ
妙に気になる。
まるで仮面舞踏会のような異国の物語の中から現れたかの存在感を、彼が醸し出しているからだろうか。
今、ここで行われている現実とは似つかわしくなくて。けれど、きらびやかな彼の存在はすごく自然で、不思議と視線が外せない。
目を引く存在とは、彼をいうのか。
ザワザワ
不意に空気が揺らいだ。
ザワザワ
黒服達が囁やき立てる。
『クリムゾン勝浦……』
『間違いない、クリムゾン勝浦だ……』
(『クリムゾン勝浦』……それが)
あの人の名前。
水面に立つさざ波のように、声が揺れている。
『なぜ?』
黒服達の間に信じられないという、ざわめきが走る。
「遅くなりました。皆さん、オークションは楽しんでいますか?」
仮面の下の声に、しんっと会場が静寂に包まれた。
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