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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない12
「おや。オークションはもう終了ですか」
仮面がフゥと溜め息を吐いた。
(この人も)
Ωを買う側の人間。
(αだ)
彼の存在に目を引いた俺だが、気を引き締める。
主催者と同じ、敵側だ。
「少し到着が遅かったかな」
「いえ。クリムゾン勝浦様。しかし……」
黒服が言い淀んだ。
「どうしましたか?オークションの進捗を報告ください」
「終わってはいません。しかし終盤です。ほぼ『終わった』と言ってよろしいかと」
代わって答えたのは、勧修寺先生だ。
萎縮する黒服達とは違い、たじろぐ様子はない。
「そうでしたか」
仮面の下で声が柔らかに笑った気がした。
「出品されているのは、この子で間違いないですか」
仮面の視線が俺に向く。
「はい。そのΩです」
「現在の値は?」
「一億」
「一億ですか」
繰り返した声に、戸惑いはない。落胆も、賞賛も。
買う側の人間。
社会の頂点に立つαには、一億円という額もさしたる金額ではないのだろう。
「購入者は誰ですか」
「私です」
「勧修寺先生でしたか」
仮面の人は、勧修寺先生を知っている。
いや……
先生は政治家だ。真川さんが新進気鋭の若手議員だと言っていた。
ここへ来る人ならば知っていて当然か。
「なるほど」
顎に手を当てて、斜に構えた視線。
不敵に口角を持ち上げて見せた……
俺へ?
それとも、勧修寺先生への宣戦布告?
『手ぶらで帰るのは、つまらない』
そう呟いただろうか、口の形が……
「クリムゾン勝浦が買いましょう」
ふわり。
仮面の羽が揺れた。
「君を、二億で」
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