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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない13
(この人は、一体なにを!?)
俺を、買う?
それも二億で。
法外な額だ。最早、オークションの域を超えている。
「どうしました?呆けた顔をして。もしかして、驚いていますか」
声にハッと我に返った。仮面の下の視線が俺を見ている。
「……なぜ?」
「なぜ、とは?」
仮面が小首を傾げた。
「なぜ、そんな高額を出すんですか?」
「おかしな事を聞きますね。ここはオークションで君は出品されている。商品があるのだから、お金を払って買うのは当然でしょう」
「でも、俺はッ」
見るのも、話すのも、今日が初見で。
「初めて会ったΩに、どうしてそんな高額な」
「君は商品です。商品に自分の額を決める権利は与えていません。決めるのは、我々購入者です」
カツン、カツン、ツン、ツン……
革靴の乾いた音が近づいてくる。
「『腑に落ちない』……顔、してますね」
体温のない手袋が左頬に触れた。
「商品の君は考えない事です。私にすべて委ねなさい」
手袋をはめた右手が頬を滑る。
「そうすれば上手くいきます」
ふわりと鼻孔をくすぐったフレグランスは、どこか懐かしく、どこか刺激的な花の香りがした。
「……といっても。果たして二億で足りるかな?」
「えっ」
「君を購入したいが、あの人が黙って引き下がるでしょうか」
(勧修寺先生)
……と、真川さん。
仮面の下の視線は、確かに二人を見据えた。
「三億」
静寂を破る声が響いた。
(勧修寺先生)
鋭利な双眼が光った。仮面に潜む挑戦的な視線を、鷹の眼の視線が受ける。
「四億」
仮面の男の声が返る。
「五億」
勧修寺先生の声が返した。
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