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第8話
ッ、ア――。
触手が蠢いてる。久しぶりの触手だ。
痛い、痛い。くそ痛ぇ。
触手が喉の奥まで入り込んでいる。孔に入り込んでる。
久しぶりの触手の夢。
だけど、いつもと違う気がする。触手が違う気がする。
触手にも種類があるんだろうか。
どっちでもいい。気持ち悪いのは変わらない。
――ウ、グッ。
触手が嗤ってる。ざわざわ、ざわざわ嗤ってる。
うっせぇ、うっせぇな、この触手。
――ン、ンン。
引き攣った声が出る。
触手が孔に無理やり二本入ってきた。
――ぐ、ぐ。
痛ぇ。
この触手、あとで全部殺してやる。
痛ぇ。
触手が嗤ってる。
ずぶずぶ、ずんずんと触手が二本、孔を犯してる。喉も犯されてる。触手が肌を滑って。乳首に吸い付いている。
――ッン、ンンン。
痛い。気持ち悪い。痛い。――気持ちいい。
触手の嗤い声も気にならなくなってくる。
こじ開けられた孔が犯されて犯されて触手の体液が大量に吐き出されて、また別の触手が入り込んできて。
――ッ、あ、あ、あ。
痛い。気持ち悪い。気持ちいい。
精液が、出そうだ。
出る、と、身体が痙攣しはじめたとき、ひかりが差し込んだ。
触手がざわめいた。だけどすぐにまた嗤う。
気持ち悪い。気持ち悪い。
気持ち悪い。
触手の中に、アイツがいる。
夢じゃない。怪物だ。怪物がいる。
怪物が触手を潰していく。俺の身体にたかっていた触手たちをはがして潰していく。
ヤメロ。気持ち悪い。
怪物が触手を潰して、潰して、触手が消えていく。
そして――俺のそばへ来た。
気のせいじゃない。怪物がいる。
怪物が俺に触れてくる。
頬に触れてくる。
気持ち悪い。気持ち悪い。怖い。
コイツは、だめだ。怪物は消えろ。
怪物から逃げる。逃げようとしたのに、身体が動かなかった。
怪物が俺の身体に触れる。
触るな。触るな。触るな。
逃げなきゃいけない。怪物をどうにかしなきゃいけない。
きらり、と光るものが視界の端に映った。咄嗟に、必死で、力を振り絞ってそれを取った。
そしてそれを怪物に振り下ろした。
――っ。
手ごたえがあった。
怪物が顔を歪めた。
手ごたえがあった。
肉の手ごたえがあった。だから、何度も振り下ろした。
シね、死ね。
怪物は消えろ。
怪物の顔が歪んでいく。
歪んで、怪物が俺を抱きしめた。
俺は怪物の腹に光ったモノを突き立てた。
『奏人。ごめん。遅くなってごめん。ごめん……』
震える声が、聞こえてきた。
ぼたぼたと、顔になにか落ちてきた。
怪物が泣いていた。
怪物が。
「――っ!」
怪物が。
「と。――奏人ッ!」
身体を、引っ張られた。頬を叩かれた。
夢、夢、夢から引きずり起こされる。
「やめろ、奏人っ! 死ぬ!」
佑月が俺の手から、光るものを、ナイフを奪った。
「……ゆづき」
真っ青になった佑月がいた。どうしたんだ、と笑うくらい真っ青な顔をしている。佑月は俺から顔を背けて、叫んだ。
「リョウ! 救急車呼べ!」
救急車? 俺は平気だ。身体のあちこち痛いが、平気だ。救急車なんて呼んだら、警察も来るだろ。
たかがケンカに。
久しぶり見たリョウが佑月と同じように真っ青になって、駆け寄った。俺の足元に。
下を見る。
血だまりがあった。
怪物が倒れていた。
「怪物……死んだか?」
リョウが怯えるように俺を見上げた。
怪物が、血を流して倒れている。
「……っ、奏人ッ! しっかりしろ!」
佑月にまた頬を張られた。
「コイツ、お前、知ってるだろっ!」
佑月が怪物の名前を、叫んだ。
『奏人。俺が絶対、助けてやる。絶対……』
ああ。
そういや、そんなバカなこと言っていたな。
――譲。
お前、なんで血流して倒れてるんだ?
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