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第7話
「最近アイツら見ないな」
ゲーセンで佑月のとなりでタバコに火をつける。
「……シンとリョウ? テスト勉強でもしてるんじゃねーの」
「テスト? アイツらがかよ」
思わず笑う。テストなんて無縁すぎる。いや高校生なんだから本当なら本分ってやつなんだろーけど。アイツらが勉強してる姿なんて想像できねぇ。
最近、といってもまだ4日くらいのことだ。ほとんど毎日のように顔を合わせていたから珍しく感じる。そういや俺アイツらがどこに住んでるのかとかも全然知らねぇな。
「まあ別にいいけど。ずっとつるんでるのはお前だけだしな、昔から」
もともと俺と佑月がずっと一緒だった。いつからかシンとリョウがいた。俺が話しかけるわけもねぇから、きっと佑月がきっかけだったんだろう。よく覚えてねぇけど、いつの間にかバーがたまり場になった。
「……奏人」
珍しく佑月がまともに俺の名前を呼んだ。
「なんだ?」
ゲーム画面はゲームオーバーでコンティニューするか表示がでている。
「あのさ……」
画面に視線を向けたまま佑月が呟く。その横顔はいつものへらへらとした笑いはなくて思いつめたような、そんな表情が浮かんでる。
「佑月?」
どうした? と思ったのは数秒だった。俺を見た佑月はへらっと笑った。
「タバコちょーだい」
そう手を出したして。
「自分で買えよ」
呆れながらもタバコを渡す。悪い悪いと全然そう思ってねーくせに口だけの佑月は火をつけながらゲームをコンティニューさせた。
そこへ転校生が来る。
気色わりぃ異物感に顔を背けた。
オッサンに買い物頼まれて酒屋へ向かっていた。金曜の夜九時過ぎ。街並みはにぎやかだ。
バーには佑月と転校生がいる。シンたちは今日も来てねぇ。もう一週間も顔見てねぇな。
そう思った矢先だった。
「――シン」
酒屋への通り道、ちょうど前からくるシンと出くわした。
「よお、久しぶりだな」
「……ああ」
いつも俺の次に血気盛んなシンが視線を揺らし歯切れ悪く頷く。
「リョウは?」
「今日は会ってねぇ」
「ふーん」
シンは俺のほうを見ようとしなかった。身に覚えはないが、シンたちが来なくなったのは俺がなんかやったのか?
「じゃあな」
そうだとしても、どうでもいい。来ないなら、それだけ。軽く手を上げて通り過ぎようとした。
「……カナト」
シンに呼び止められて、肩を並べる位置で立ち止まる。シンは一瞬俺を見て、すぐに視線を逸らして口を開いた。
「……お前さ、一度病院行ったほうがいい」
なにを言われたのかわからなかった。シンの言葉をしばらく考える。
「病院? そんな怪我してるように見えるか?」
「……違う。……科だよ」
言いにくそうにシンが呟く。かすれた声のせいで聞き取れなくて、なに、と聞き返した。シンは口をつぐんで、ようやく俺を真っ直ぐ見た。
「……お前さ……。お前……父親となんか、あるんだろ」
――。
父――……。
「お、いたいたー」
「みーつけた」
シンの顔が歪む。声がしたほうを見ると俺が言えたことじゃねーけど、ガラの悪そうなヤツらがゾロゾロとやってくる。
「この前のお礼しようと思ってさ、探してたんだよ」
顔にデカい青あざつくったハゲが笑う。
俺も、笑った。ホッとして、笑った。
さぁ、ケンカ。殴って、殴って、殴って、殴られて、だ。
ぞろぞろと十人ぐらいのヤツらに俺とシンは囲まれるようにしてソイツらのたまり場に連れていかれる。シンは険しい顔をしているけど、俺は高揚した。
コイツら、殴って殴って殴ってやる。早くぶっ潰したくて、コイツらのたまり場についてすぐに俺から殴り始めた。
「シね!」
笑って、殴って殴って、殴られて殴られて、殴られて。
「カナト!」
シンも殴られながら俺を心配そうに見る。バカが。俺に構わねぇで身を守れ。ああ、ほら、殴られた。そして俺も木材で殴られる。
頭がグラグラ揺れる。くそ痛ぇ。グラグラしながら、殴る。殴って殴って、殴られて殴られて。
強い衝撃を後頭部に受けて、視界が真っ暗になった。
***
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