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第14話
「退院おめでとう」
梅雨にそろそろ入りそうな頃、俺はようやく退院した。
あの日、桜を見て譲を認識して、でもそれからまた俺は不安定になった。安定するのに数週間、そしてそこからさらに一か月経ってようやく退院だ。叔父さんの家じゃなくて、俺は譲の家にお世話になることになっていた。
譲のお母さんが迎えに来てくれるっていうのを断って俺は譲とふたりのんびりとバスで譲の家に向かう。
「ありがとうな……」
「いや、お礼を言うのは俺のほうだよ。これから一緒暮らせるのが嬉しいからな」
「……」
真っ直ぐに見つめられて頬が熱くなる。譲って昔から真面目で真っ直ぐでこっちが照れるようなこと平然と言うんだよな。
「おじさん、おばさんたちに迷惑かけないようにするよ」
「そんなこと気にしなくていい」
ポンと譲に頭を叩かれて、そうは言ってもな、と苦笑する。
ふとバスの振動音に混じってスマホの振動を感じた。ポケットから出すと佑月からのメッセージの受信だった。
「佑月から、退院おめでとうだってさ。今度遊びくるって」
「……ああ」
入院して見舞いに来てくれていた譲を佑月と無意識に思い込んでいた。そんな俺のそばにずっといてくれた譲。退院できたのも譲のサポートのおかげだ。
だから、逆に俺だって精神的に落ち着けば譲の顔色は読み取れる。親友なんだから。
「譲って佑月にヤキモチやいてたりするのか?」
バスの後ろのほうに座ってる俺たち。あまり人は乗っていなくて周りにひとはいない。走行音にまじって譲へ言った言葉に、譲は一瞬呆けてみるみるうちに顔を真っ赤にさせて顔を背けた。
「っ、な、なに言ってんだ」
「だって佑月のこと気にしてるだろ」
毎日毎日見舞いに来てくれて、俺に向けられる笑顔を見てれば、譲の気持ちなんてすぐわかる。
「……別に」
「佑月、カノジョできたんだってさ」
「……ふーん」
まだ譲は俺のほうを見ない。耳がまだ赤くなったままだ。
ふっと視線を自分の手に落とす。高校に入ってケンカばかりしていた手。長い入院でケンカのあとなんてなにもない白い手。細くなりすぎた手。
そっとその手を伸ばし譲の手を取った。すげぇスピードで譲が振り向く。
目を見開く譲の顔がおかしくて吹き出しながらぎゅっと手を握りしめた。
少しずつ嬉しそうに譲の顔が緩んでいって、ぎゅっと握り返される。
温かさと、目の奥に熱いものを感じて微笑み返す。
バスの窓の向こう側にはとってもきれいな青空が広がっていた。
終
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