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序章【情熱的且つ退廃的な訪問】 1
第二の性なんて。
――アルファなんて、クソくらえだ。
すっかり暗くなった道を、松葉瀬 陸真 は歩く。
我が物顔で、と言うべきか。
「……チッ」
怒りに歪ませて、とも言うその表情で。
松葉瀬は夜道を歩いていた。
ほんのりと酒の臭いを纏った松葉瀬は、心底、機嫌が悪い。
松葉瀬の脳裏にこびりついているのは、先程まで自分が参加していた職場の飲み会。
そこで振られた、反吐が出る話題の数々。
『松葉瀬さんって、アルファなんですよね? 係長から聞きました!』
『アルファって、普通の人より優れた人種……ですよね? そっか! だから松葉瀬さんって、お仕事ができる人なんですね!』
『私、ベータなんですけど……うなじ、咬んでいただけますか? なんちゃって~!』
ズキズキと、頭が痛んだ。
それと同時に、松葉瀬は叫ぶ。
「――ッぜェんだよクソがッ!」
近くにあった電柱を、意味も無く蹴る。
ただただ、鈍い音が鳴った。
「あぁッ、クソッ!」
整っていた金色の髪を、乱暴に掻く。
そんなことをしたところで、松葉瀬の苛立ちは収まらない。
不快さを一切隠そうとしないまま、松葉瀬は歩く。
そこで、ふと。
――見慣れたアパートの近くまで来ていたと、気付いた。
そのアパートは、松葉瀬が勤務している会社の、社員寮。
「……チッ」
松葉瀬は他人の迷惑も考えず、ガンガンと音を立てて、階段を上がる。
余談ではあるが、松葉瀬はこの社員寮には住んでいない。勿論、親族がいるわけでもなかった。
そんな松葉瀬が向かったのは、一つの部屋。
松葉瀬はインターホンを鳴らしもせず、その部屋のドアノブをガチャガチャと乱暴に回した。
そんな奇行をして、数分後。
――カチャリ、と。開錠される音が聞こえた。
「……ふ、ぁあっ。……センパイって、ほぉんと……非常識極まりなぁい」
扉の向こうから現れたのは、細身の青年だ。
寝間着であろうラフなスタイルの青年は、松葉瀬のことを眠たげに見上げている。
「今、何時だと思ってるんですかぁ?」
――二十三時、四十五分。
そう答える気に、松葉瀬はならない。
「うるせェ。サッサと股開け」
扉を更に開き、松葉瀬は青年の部屋へ無断で入る。
しかし、青年は松葉瀬を止めようとはしない。
「ほんと、サイテー。大嫌いでぇす」
松葉瀬を中へ招き入れた後、青年は扉を閉め、鍵をかける。
そして、通路をペタペタと歩き始めた。
――瞬間。
「三度は言わねェ。……股を開けっつってんだよ」
「う、っ!」
松葉瀬は。
通路に、青年を無理矢理、押し倒した。
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