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人の頭を優しく撫でた経験なんて、松葉瀬にはない。
そもそも松葉瀬は、誰かに優しくしようと思ってできるようなタイプでもなかった。
自分勝手で、人の思い通りに動くことを疎む。
だからこそ松葉瀬は、矢車の頭を乱暴に撫でた。
「ん……っ」
それでも、矢車は気持ち良さそうに目を閉じている。
その様子がどうにもくすぐったくて、松葉瀬は矢車の耳に、指を伸ばした。
ある意味で……先日、酔っ払った矢車が耳を噛んできたことへの報復でもある。
「あ、っ」
ピクリ、と。
矢車の肩が、小さく跳ねた。
「耳、たぶ……ん、っ。もっと、グリグリして……ください、っ」
「……こうかよ」
「んっ、気持ちいぃ……あ、頭も、空いてる方の手で……ワシャワシャしたら、いいと思います……っ」
「強欲だな」
言われた通り、松葉瀬はもう片方の手を矢車の頭に伸ばす。
片方の手で頭を撫で、もう片方の手で耳を弄ぶためだ。
「は……ん、っ」
驚くほど、矢車は大人しかった。
――だからこそ、松葉瀬は無意識に考えてしまったのだ。
(――何だ……? コイツも、普通に可愛い反応ができるのか)
そんな、普段の松葉瀬なら絶対に抱かないであろう感想を。
――自分の考えに、松葉瀬はゾッとした。
(――『可愛い』って、何だよ……ッ? この、ヘンタイがか?)
驚きを隠すために、耳たぶを強めに握る。
「ひゃ、う……っ。も、もっと優しくしてください……っ」
文句をつけられ、松葉瀬は少しだけ落ち着く。
(そうだ……コイツはふてぶてしくて、可愛げのねェ……クソみたいな後輩だろォが。……断じて、可愛くない)
両手を放し、矢車を弄くることを中断する。
そうすると物足りないのか……矢車が潤んだ瞳で、松葉瀬を見つめた。
「センパイ……っ? もう、おしまい……ですかぁ?」
セックスのとき。矢車の強請る顔と言えば、この表情だ。初めて見たわけじゃない。
それなのに松葉瀬は、どうしたって……落ち着かない。
(調子、狂うな……ッ)
何となく、いつもより色っぽく見えて……そそられる。
『もしかしてボクたち、運命の番だったり?』
さっきの言葉は、深い意味のないものだ。
――【運命の番】だなんて、迷信に決まっている。
それなのに、今の矢車は。
「……もっと、シて……っ?」
いつもと同じく、淫らでどうしようもないオスなのに。
松葉瀬の目には……輝いて、見えたのだ。
「……続き。されてェなら、自分で跨れや」
矢車と向き合い、松葉瀬はぶっきらぼうにそう吐き捨てる。
その言葉を受けて、矢車がどんな行動をとるか。
それらを、分かっていながら。
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