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背中の燦爛 2
痛くて、熱くて、苦しくて.....
でも、すごく安心できる香りに包まれて。僕はずっと「先生」って譫言みたいに呼んでいた。そしたらきゅっと僕の手を握って「透」って甘い声で返してくれる。それが、泣いてしまうほど嬉しかった。
先生が僕の頭の先から爪先まで、沢山のキスを降り注いでくれる。先生の唇に触れられた所から身体がじわじわと熱を持っていくようだった。僕の心臓は破裂してしまうんじゃないかな。呼吸の仕方さえ忘れてしまった。
「せんせ、せんせい....」
「透、大丈夫。ここにいる。」
必死に先生にしがみつこうとする僕を、寂しいのだと思った先生がしっかりと抱きしめてくれた。本当はただくっついていたかっただけなんだけれども、やっぱり僕の心は満たされてしまうのだ。
「せんせい、ぼくを、つがいにしてくれる....?」
その瞬間、先生は少し複雑そうな顔をした。
――どうして?僕のこと好きじゃないの?
そんな考えが頭を過った刹那、自分が顔も知らない男に身体を暴かれた光景が目の前に鮮明に広がる。
――ああっ!......そうだ、僕は、僕は.....!!!
「ごめんなさい、ごめんなさい!ごめん.....許して.....」
高潔な先生の前で、自分の身体を見せることが急に恥ずかしくなった。
――消えたい
「みないで、おねがい、みないで、みないで....」
僕は頭を抱えて丸まった。そうすれば視覚も聴覚も全て遮断できると思ったからだ。大好きな先生の声もこれで聞こえない。その事がとても悲しくて、また、泣いた。
そっと暖かな体温が僕の背中を柔らかく撫でた。その気持ちよさから、ほぉっと息を吐く。そして、甘く香る芍薬、これは先生の匂い。先生の香りに包まれてゆくと優しい毛布でくるまれている心地になる。
「透。ごめん、おまえを不安にさせた。」
耳元で先生が小さな声で言った。僕は後ろから先生に抱き込まれている形だから、先生がどんな表情を浮かべているのか分からなかった。でも、なんだかとっても悲しそうな声だった。
「.....ううん。せんせいは、悪く、ないよ。僕の身体、ううん、ぼくね、きたないの.....もうっ!、もう、きれいじゃないっ.......!」
先生が謝るのも、僕の所為で僕が汚くなったのも、全部に腹が立って、なのに悲しくて、僕は泣き叫んだ。わんわん声をあげて泣いた。僕の全てが許せなかった。
「透、透、おまえは綺麗だよ。」
「う、うそだ!!嫌な顔した、でしょ!」
「違うんだ、それは「いやだ!聞きたくない!」
僕は怖くて先生の言葉を遮った。
そしたら、どんと視界がまわって僕は仰向けにさせられた。先生が上から覆い被さる。怖いと思ったのも束の間、きつくきつく先生に抱きしめられていた。
「聞いてくれ。おまえを番にしたい、と俺から言いたかったんだ。なのに、酷い目にあって、その上ヒートでつらそうなおまえに、番のことまで言わせてしまった。......俺は不甲斐ない男だよ。」
「そんなこと.....」
先生は困ったように微笑んだ。
「なあ、透。話を聞いてくれるか?」
「.....うん」
肯けば、「いい子だ」と言って先生は僕の頭を撫でてくれた。それから、僕の目をじっと見つめて微笑んでくれた。その笑顔に僕の心の冷たく固まってしまった部分が僅かに溶けていく。
「透、俺をおまえの番にして欲しい。運命なんて関係ない。俺はおまえが欲しいよ。例え、運命じゃなかったとしても、俺はおまえと必ず出会って、おまえと番になりたいと思った。」
「先生、これまでの僕を、許して.....」
僕は先生の愛を受け入れるために、過去の自分を許して欲しかった。すんなりと出てきた言葉だった。
「許すもなにも.....」
先生は優しいから、そんな風に言ってくれるけれども、僕は首を横に振った。
――僕は、許してもらいたい。
「先生.....」
先生の左頬をするりと撫でる。先生はその手を取って握りしめてくれた。それは、きっと全部分かってくれた証。
「ああ、許すよ。だから、透もこれまでの自分を許してあげて。」
ぱたぱたと涙が溢れて止まらなくなった。僕は何度も肯いた。
ーーー
「.....んっ、あ、あぁ、あ、せん、せ、んぅ...」
どろどろに発情期 の熱に溶かされながら、僕は先生の大きなペニスを根元まで迎え入れることができた。僕の身体に負担がかからない緩やかな抱き方をしてくれる先生だって、本当はつらいはずだ。
「いい、んだよ、もっと、はげしくして、も.....」
「俺はおまえを甘やかしたいんだよ。」
「そっ、なの.....?ふふっ、うれし、っあ、あん!」
前立腺を掠めただけの刺激で僕は達してしまった。
「かわいいよ、透。」
「ふっ、う、あぁ、あっ、きもちい、せんせ、もっと、もっとして.....あうっ!!!」
ズンと奥に響く今までと異なった衝撃。思わず先生の背中に爪を立ててしまった。
「ごめん、透が煽るから.....」
先生はよく分からない謝罪を述べると、律動をやめて奥の奥にペニスの先端を押し付けるように腰をゆっくりとまわした。徐々に先生のペニスの根元が膨らんでいき、僕の中にみっちり収まった。僕は先生に向かい合わせで抱かれているから、結合が深くなるたびに先生にきつく抱きついてしまった。
「ああ、あっ、も、イく、イっちゃう....ぁは、ああっ...!!!」
液体みたいな精液を出すと身体は弛緩してゆく。先生はそんな状態の僕を支えて僅かに顔を横に背けさせる。そして、あらわになった頸に舌を這わす。その生暖かい感触にぞくぞくしてしまう。
「噛むぞ」
「うん、うん、噛んで!」
必死になって応えれば、刺さるような痛みと大きすぎる快感が一斉に押し寄せてきた。自分の身体を見失いそうになる程の快楽の波と、経験したことのない程の充足感に満たされて、僕の意識は途絶えた。
それでも、最後まで香った芍薬の花、先生の香り。
(第二章 終わり)
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