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青木さんと嘉月さん 5
***
「ァアッ...!!!」
発情期じゃないのに身体が焼けるように痛む。
「よく効いているみたいだね。」
久しぶりに自分の番の声を聞いた。
下品な黒いレースの目隠しは、内側にしっかりと遮断性のある布が取り付けられていて、俺は視界を完全に奪われていた。何も見えない状況で、身体だけが熱を持ち始める。それが、とてつも無く怖かった。
「な、なに、したの!?」
「うん?発情促進剤を盛っただけだよ?」
ヒュッと息がつまる。一ヶ月前に地獄の発情期を終えたばかりなのに。冷たいシーツの上でガタガタと身体が震え始めた。
さらさらと髪を撫でられる。その刺激も怖くて震えは大きくなるばかりだった。
――あの時、一色に助けを求めればよかった。
なんで、あんなに意地を張ってしまったんだろう?
そう思うと、胸の奥が冷たく痛む。だって、それは、俺が一色に勝手に片想いして、勝手に失恋しただけだから。どうしても、想いを馳せた相手に縋りたくなかった。それに、一色には透くんがいる。俺と違って、あんなにいい子が傍にいるんだ。今更、俺が一色に甘えることなんてできない。
一色とは大学時代からの仲だった。あいつはオメガとしての俺ではなく、嘉月京という一人の人間として俺を見てくれた。医学部首席は一色、次席は俺。でも俺はオメガだったから、最終的に次席は三位のアルファに繰り上がったのだった。そんな理不尽にも慣れきっていた俺は、特に悔しさも怒りも湧いてこなかった。それに、俺よりも一色が激怒して、最終的にはわんわん泣くものだから、なんだかどうでも良くなってしまったのが事実。すごく、嬉しかったけど。そんな一色だから、好きになった。別にその恋を実らせようとは思わなかったけれど。結果的に、それで良かった。
「今日は、抱いてあげる。ずっと欲しかっただろう?」
幸せな記憶に浸っていたら、ねっとりした声で現実へと引き戻された。
「ぃ、いやっ!!いやだ!いやだ!.....ふっ、うぅ」
布を口の中に無理やり押し込まれて、大きな声を出すなと叱責される。その後すぐに、硬く滑らかな何かが悪戯に俺の肌をなぞっていく。大きく開脚した脚を太腿にそれぞれ固定された時に、それが縄である事に気がついた。両腕も背中側で、一纏めに縛られてしまった。強制的に発情期を迎えさせられ疼く身体には、きつい体勢だ。
「ああ。京のここ、よく見えるよ。いやらしい愛液を溢れさせている。慣らさなくても大丈夫そうだ。」
「ぅうっ!!!」
羞恥を煽る言葉に続いて、勢いよく最奥まで一気に突きあげられた。ピュルッと腹の上に熱い飛沫が飛ぶ。
「挿れられただけで達するとはね。随分と欲求不満だったんだね。でも、京は雌にならないと。雌はこんな白濁は出さない。」
そう言って、俺のペニスの根元をキツく縛りあげると、勃起していることを咎めるみたいに強く竿を叩かれた。
「うー!!!」
痛みに悲鳴をあげると、口の中に入っている布が奥の方まで詰まってしまい、更に苦しくなる。そんな俺に構うことなく激しい律動が開始された。子宮口を抉るような動きは痛みしかなく、ヒート中であるにも関わらず快楽など生まれそうになかった。
「京、つらそうだね。その顔、すごく、いいよ。もっと、痛くしてあげよう。」
グッとペニスを押し込まれ、亀頭球で完全に隘路を塞がれてしまった。そしてアルファ特有の大量の精液が叩きつけられる。
「うっ、うー!!!うぅー!!!!」
腹の中を突き破られそうな衝撃に身を捩るが、その戒めとでも言いたいのか、ゴリゴリと更に奥までペニスを侵入させられた。
「フフッ、これだけでは終わらせないよ?京は優秀なお医者さんだから知ってるよね?亀頭球は大量に注いだ子種が出ないために形成される。だから、射精が終わるまで抜けないようになっているよね?じゃあさ、その状態で無理やり抜いたらどうなるかなぁ?」
「ふっ、う、ううっ、うぅっ!!!」
相手を押し返してやりたいのに、拘束された身体では何もできなかった。無情な宣告が下され、途端に下肢からメリメリと嫌な音が聞こえてきた。あまりの痛みに声すら出せなかった。身体を引き裂かれるような痛みが襲い、バチュッと大きな異物が抜け出たと思ったら、口の中に含まされていた布を取り出される。髪を乱暴に引っ張って起こされ、空になった口内にまだ硬度のあるペニスを捻じ込まれた。
「飲め」
それから長い時間、大量の精液を必死に飲み込み続けた。
番の体液を摂取した影響で、一時的にヒートの波が過ぎ去っていく。それと共に、下半身の痛みは増していく。目隠しを外され、痛む身体で自身のソコを確認すれば、酷く裂けていた。内股をだらだらと血液が伝っていた。
「ぁあ、あぁあああああぁぁっ!!!!」
傷だらけの箇所に太いバイブが押し込まれ、衝撃とあまりの痛みに叫んだ。後ろに倒れ込むと縛られている腕が圧迫されたので、ころんと横になる。
「京、お楽しみはこれからだよ。暫くはこのまま大人しくしていなさい。」
番はそう言い残して、寝室から出て行った。
***
どのくらい、時間が経ったのだろうか。再びヒートの波が押し寄せて来たことで、朦朧としていた意識がはっきりと目覚めた。幸い痛みも、灼熱の身体で麻痺しているようだった。
安心したのも束の間、扉越しから僅かに聞こえた声が、どんどん近づいてくる。与えられた痛みを思い出して、身を守るように身体が縮こまった。
「やっと、きみに会えて嬉しいよ。....今日はね、打ち合わせの前に、私のインスピレーションを引き出す手伝いをしてもらいたいんだ。.....ああ、埋め合わせとは、その手伝いのことだよ。」
寝室の扉が完全に開け放たれ、番の上機嫌な言葉が鮮明に突き刺さる。
「青木くん、これが私の番だ。」
それは、あまりにも残酷な響きを伴って。
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