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第22話
食事を学生の頃によく行っていた駅前のファーストフード店で済ませると、彼らは昼間にも関わらず、駅の裏通りにある小さなビジネスホテルへと向かう。柚木は部屋に入るなり、陣内を抱き寄せて、舌で陣内の耳朶の輪郭を撫でる。
「ああぁ」
耳の奥まで聞こえる水音。柚木の舌が鼓膜の中へ入ってくるのも恥ずかしいが、聴覚が卑猥さを感じて、恥ずかしくなる。
意識している訳ではないのに、腰まで浮いてきて、どうにかなってしまいそうな気持ち。
翻弄される陣内に柚木は首筋に噛みつくように唇で吸う。吸われた跡には淡い赤色が陣内の肌の色に映えた。
「ジン……足りないよ……」
熱っぽく、囁かれる言葉に陣内はベッドに倒されて、下着が膝へとずらされる。
以前は陣内を苦しめるくらいなら柚木は友人でも構わない、それを一生、貫く覚悟さえできていたが、今は違う。
柚木に躰を触れられ、重ねられる。高校生や大学生だった頃の柚木とは違い、少し大人の男になった柚木を直視は難しいが、何とも言えない幸福感で満たされる。
「柚木……」
「何? ジン……」
「好きだ」
まだ好きという事を知り始めたばかりの陣内は深く目を瞑る。
多分、良い事ばかりではないだろう。
もしかしたら、柚木の言っていた通り、苦しむくらいなら友人のままでいた方が幸せだったのかも知れない。あるいは、好きは好きでもその名を借りて、どろどろとした感情に変わってしまうかも知れない。
ただ、好きという事、愛するという事……他にも沢山の事を柚木と共にもっと知っていきたい。
「柚木は?」
「ああ、僕はずっとジンが好きだったよ、高校生の頃からずっとね」
柚木は「本当に僕で良いの? 逢坂先生じゃなくて……」と言っていた。
確かに逢坂は様々なものを陣内にも柚木にも与えた。だが、それでも、彼らは共に生きていくだろう。
共に、苦しみも全てもなかった事にしないで、生きていくだろう。
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