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第21話
「まさか、ジンも東京へ来るなんてね」
「ん?」
陣内は元々、大学へ通っていたのだが、それは母親の死で変わってしまった。唯一の身寄りである伯父にも告げず、自分の意思で大学を辞め、専門学校へ通うようになる。
その専門学校での課程を終え、1年間、必死に就職活動をして、東京の企業に採用されたのだった。
「ジンは実直だし、体力あるし、粘り強いからあとは人間関係だけかな? わが社はそれなりに人が多いので、大丈夫ですか? って……」
「……」
陣内は柚木の上司のコントを何も言わずに聞いていた。やや思うところはあるが、本当の事でもあり、陣内は二の句が次げない。
だが、そのコントは呆気なく終わり、柚木の目元には優しいものが帯びる。
「まぁ、いっか。ジンの1人くらい僕が養ってあげるよ。その代わり、ジンは僕を癒して欲しいな。ジンが足りなくて、おかしくなりそうだったから今日は思いきりジンを抱きたい。まずはジンの耳を……」
「柚木っ!」
強く、ストップと言うように陣内は叫ぶ。それからの言葉は恥ずかしい。
物事に頓着な性質である陣内が柚木の言葉を切ってまで、はっきりと言ってきたかと思ったら、「お前だけじゃない」と言い淀んでしまう。
柚木が再度、強く促すと、陣内は口を割った。
「俺も柚木が足りなかった」
思えば、以前、つき合っていた彼女にも3か月ほど会えなくて寂しいと言われた事があり、その時の陣内には正直分からなかった。彼女を逢坂や柚木に置き換えて考えてみたが、今は柚木と1日でも会えないと辛いかも知れない。
陣内がどんな事をしても、つなぎとめていたいと思ったのは柚木だけだった。
「ふふ、じゃあ、ご飯食べたら、ホテルだね。本当は東京まで我慢しようと思っていたんだとジンがそんなに僕が足りないなら、ね」
逢坂は陣内をからかいながら、彼のまとめた荷物を半分持って、玄関の方へ向かう。それに続き、陣内もまとめた荷物を持ち、何もなくなってしまった部屋を出ていく。
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