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第1話

 ドアを開けると、図体のでかい男が俺のベッドの上で寝転がっていた。  見慣れた光景に俺はちらりと男を見やっただけで、声もかけずにクローゼットにむかった。 「おかえり」  読んでいた漫画から顔を上げずに男が言う。 「樹(イツキ)。お前な、ひとのベッドでもの食うのやめろ。何度も言ってるだろ」  ため息をつきながら、俺は制服のブレザーを脱いで、ハンガーにかけた。  樹が口に入る寸前だったクッキーを持つ手を止める。 「でた。真(マコト)の潔癖症」 「潔癖じゃねえよ。寝る時、お前の食った菓子のカスが顔にへばりついて嫌なんだよ。あとでちゃんと掃除機かけとけよな」 「うん、分かった」  返事だけはするものの、ずぼらなこの男は絶対に掃除機などかけないだろうということを俺は長い付き合いから学んでいた。  成澤樹(ナルサワ イツキ)。  俺と同い年のアルファの幼馴染。  俺の小学校の入学と同時に、父親が樹の家の隣の一軒家を購入し、引っ越した。  同い年ということもあり、樹や樹の双子の妹、喜美ちゃんと隣同士で暮らす様になって俺は直ぐ仲良くなり、まるで本当の兄弟のように育った。  俺たちはお互いの家の合い鍵を持ち、放課後は一緒に遊ぶのが当たり前の関係になった。  樹はあまり表情が変わらず本心を隠すのが上手いが、俺は昔から何故かそんな樹の感情が手に取るように分かった。  あっ、喜美にお気に入りのお菓子を取られて悔しいんだな。  仲良く笑っているけど、本当は樹、あいつが嫌いなんだな。  樹の本音を理解できるのは自分だけだと思って、そこに俺は多少の優越感も抱いていた。  俺と樹は一心同体。  なんでも分かりあっている。  そう考えていた時期もあったのだ。  自分がオメガだと確定するまでは。    この世界には男女の性とは別にもう一つの性がある。  アルファ、ベータ、オメガの三種類だ。この国では、三種を判定する検査を全国民が中学に入学する年齢で必ず受けることになっている。  アルファは人口の25パーセントを占める。能力が高く、容姿端麗の者が多い。  ベットに寝そべるアルファと判定された樹を見ると、確かに背が高く顔も整っている。  樹と俺は先日同じ大学を受験して、二人とも合否の結果待ちの状態だが、樹の偏差値ならもっと上の大学を目指せるくらいだから、俺のような不安で仕方ない気持ちなどこいつには理解できないだろう。  ベータは人口の50パーセントを占め、能力容姿共に凡庸の者が多いとされている。  オメガは残りの25パーセントを占める。肉体的に弱く、そのためか他人の庇護欲をかきたてるような可愛らしい容姿の者が多い。  俺と喜美ちゃんはこのオメガだと判定されている。  喜美ちゃんは、はちみつみたいな色の髪の天然パーマが良く似合う、いかにもオメガという愛くるしい容姿をしている。  喜美ちゃんは近所の女子高に通っているが、登下校の際、あまりに告白されたり付き纏われたりが多いため、ボディーガードを雇い、送り迎えをしてもらっているほどだった。  それに比べて俺は。

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