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第2話
元がアルファでオメガに性差転換したという特異の経歴を産みの親にもつせいか、俺はオメガらしくもない身長と筋肉を持っていた。
樹には及ばないものの、喜美ちゃんより頭一つ分以上高い身長と、凡庸な焦げ茶色の髪と瞳。
肌の色が白いせいか、垂れ目のせいか。たまに中性的な容姿と言われることはあるものの、可愛らしいなど、俺には全く当てはまらない。
俺は自分が本当にオメガなのか常々疑問を抱いて生きてきた。
そもそも俺まだ、ヒートすらきてないし。
そんなことを考えながら、俺は制服のシャツのボタンを外し始めた。
ヒートとは12歳から15歳くらいまでの間にオメガだけに始まる発情期のことだ。ひと月からふた月に一度くらいの頻度でヒートは訪れ、一週間の間、フェロモンを甘い香りで分泌し、雄を誘うのだ。
この体質のせいでオメガは疎まれ、淫乱だと罵られ、まともに働けないような時代もあった。
今はヒートを軽くする抑制剤などの開発が進み、だいぶマシにはなったが、番のいない大部分のオメガにとって、ヒートはやはり憂鬱な期間といえるだろう。
番というのはオメガとアルファの間だけにうまれる関係だ。
ヒート中のオメガの首をアルファが噛むことで番関係は成立する。
婚姻関係のように法的な制度ではないが、首を噛まれたオメガはヒート中に番以外のアルファに触れられると、吐き気を催すほどの強い生理的嫌悪を催し、一方アルファはオメガを番にしたところで何も変わらない。
またアルファは何人もの番を作ることが可能だ。
オメガが番契約を行うと、ヒート中のフェロモンが番相手にしか効かなくなるのはいいが、もし番のアルファに捨てられてしまったら、ヒート期間を一人で乗り越えなくてはいけなくなる。
どうしてもオメガ側に負担の多いシステムだと俺は感じてしまう。
唯一の相手にしか効かないフェロモンなんて運命的で素敵じゃない、なんて喜美ちゃんは言っていたが、俺はそう思えなかった。
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