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第3話
「どうかしたん?」
物思いに耽っていた俺は、つい着替えの手を止めていた。
樹に声をかけられ、慌ててアンダーシャツを脱ぐ。
「いや。俺、もう一度性差検査受けてみようかなって考えててさ」
「は?なんで?」
樹の声が妙に低く感じた。
「だって、どう考えても俺がオメガっておかしいだろ?喜美ちゃんみたいに可愛らしくもないし。それに17にもなるのに、俺まだヒートもきてないんだぜ」
俺はそう言って、自分が身に着けている黒い首輪に触れた。
ヒートのない自分がこんなものをしていても、滑稽なだけだと分かっているが、父さんにうるさく言われるので、仕方なしに外さないでいた。
175㎝の身長、割れた腹筋、可愛らしくもない顔立ち。
どこをどうとっても俺は自分がベータかアルファだと確信していた。
まあ、俺は頭があんまり良くないから、アルファと思うのはうぬぼれかもしれないが。
「真はオメガだよ」
樹にきっぱりと言われ、かちんときた俺は振り返った。
「なんで、お前にそんなことっ」
こちらを見つめる樹の視線は鋭かった。
最近樹はよく俺をこんな瞳で見つめる。
苦しいような、それでいて熱のこもった瞳。
幼い頃、俺は自分こそが樹を一番良く分かっていると思っていた。
でも樹がこういう瞳をするようになってから、その自信は揺らいでいた。そして自分がオメガと判断され、こいつに劣等感を抱くようになると、余計に分からなくなってしまった。
「真はオメガだよ。絶対」
樹はそう言うと、ふっと視線を逸らせる。
金縛りが解けたように俺も息を吐いた。
「そろそろ飯の時間だ。さっさと着替えて下、降りようぜ」
「樹、また夕飯うちで食ってくつもりかよ」
「当たり前だろ。今日こそあのゲームクリアすんだから」
「お前、まじで受験生の自覚ないよな。ったくうらやましいよ」
俺はジーンズとシャツに着替えると、ドアを開け、階段を降り始めた。
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