15 / 101

第15話

 疲れからか俺は眠っていたらしい。  突然顔に強い光を浴びせられ、俺は何度か瞬きを繰り返した。 「真。大丈夫か?」 「樹……なんでこんなところに」 「それはこっちの台詞だよ。何があったんだ?みんなすごく心配して」  樹は持っていた懐中電灯を放ると、俺に近づき、眉を寄せた。 「ヒートか?」  問われ、俺は頷いた。 「甘ったるいだけじゃない。柑橘系のいい香りだ」  陶酔した表情で、樹はそう言ったあと、カッと目を見開いた。  俺の肩を痛いくらいの力で掴む。 「お前、いったい誰に襲われた。こんなべったり匂いがつくなんてっ」  初めて見る樹の表情だった。  犬歯を剥きだしにし、俺を睨んでいる。  恐怖から俺の体は勝手に震えた始めた。 「この匂い……蔵元のだろっ。真、本気であいつのことが好きだったのか?それでやらせてやったのか?どうなんだ。答えろっ」  樹に怒鳴られ、限界だった俺の瞳から大粒の涙が零れる。  こんな無防備に樹の前で泣いたのは子供の時以来だった。 「俺……突然発情期が始まっちゃって、自分のことオメガだと思っていなかったから驚いて……。偶然、蔵元がその時傍にいたんだ。俺逃げようとしたんだけど、あいつの方が早くて。捕まって」  樹がはっとした表情を見せる。 「いや、ごめん。違う。この言い方だと、俺が被害者みたいだよな。俺が悪かったんだ。ちゃんとオメガだって自覚してなくて、抑制剤も持ち歩いてなかった。だから被害者は蔵元での方で、俺が全部悪くて……」  樹は泣き出しそうに顔を歪めた後、俺をぎゅっと抱きしめた。 「なんでお前だけが悪いんだよっ。馬鹿野郎」 「樹」  顔を上げた俺と樹の視線が間近で絡み合う。  樹の唇がゆっくりと俺のと重なる。  そういえば蔵元とはキスなどしなかったと思いながら、俺は樹の腕に縋りついた。    樹の舌が口内で俺の上顎をぞろりとなぞる。  それだけで、じゅわりと下肢が濡れた。  樹に屹立を押し付けると、樹が突き飛ばすように俺と体を離した。 「樹。ごっ、ごめん」  体が樹を欲していた。こんな時なのに大切な幼馴染を、アルファだからという理由だけで俺は汚れた体で欲してしまう。  オメガとは何て因果な生き物なんだ。

ともだちにシェアしよう!