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第15話
疲れからか俺は眠っていたらしい。
突然顔に強い光を浴びせられ、俺は何度か瞬きを繰り返した。
「真。大丈夫か?」
「樹……なんでこんなところに」
「それはこっちの台詞だよ。何があったんだ?みんなすごく心配して」
樹は持っていた懐中電灯を放ると、俺に近づき、眉を寄せた。
「ヒートか?」
問われ、俺は頷いた。
「甘ったるいだけじゃない。柑橘系のいい香りだ」
陶酔した表情で、樹はそう言ったあと、カッと目を見開いた。
俺の肩を痛いくらいの力で掴む。
「お前、いったい誰に襲われた。こんなべったり匂いがつくなんてっ」
初めて見る樹の表情だった。
犬歯を剥きだしにし、俺を睨んでいる。
恐怖から俺の体は勝手に震えた始めた。
「この匂い……蔵元のだろっ。真、本気であいつのことが好きだったのか?それでやらせてやったのか?どうなんだ。答えろっ」
樹に怒鳴られ、限界だった俺の瞳から大粒の涙が零れる。
こんな無防備に樹の前で泣いたのは子供の時以来だった。
「俺……突然発情期が始まっちゃって、自分のことオメガだと思っていなかったから驚いて……。偶然、蔵元がその時傍にいたんだ。俺逃げようとしたんだけど、あいつの方が早くて。捕まって」
樹がはっとした表情を見せる。
「いや、ごめん。違う。この言い方だと、俺が被害者みたいだよな。俺が悪かったんだ。ちゃんとオメガだって自覚してなくて、抑制剤も持ち歩いてなかった。だから被害者は蔵元での方で、俺が全部悪くて……」
樹は泣き出しそうに顔を歪めた後、俺をぎゅっと抱きしめた。
「なんでお前だけが悪いんだよっ。馬鹿野郎」
「樹」
顔を上げた俺と樹の視線が間近で絡み合う。
樹の唇がゆっくりと俺のと重なる。
そういえば蔵元とはキスなどしなかったと思いながら、俺は樹の腕に縋りついた。
樹の舌が口内で俺の上顎をぞろりとなぞる。
それだけで、じゅわりと下肢が濡れた。
樹に屹立を押し付けると、樹が突き飛ばすように俺と体を離した。
「樹。ごっ、ごめん」
体が樹を欲していた。こんな時なのに大切な幼馴染を、アルファだからという理由だけで俺は汚れた体で欲してしまう。
オメガとは何て因果な生き物なんだ。
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