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第14話
蔵元がほっと息を吐く。
「なら、早く服を着て。適当に隠れていろよ。ちゃんと俺の言うことを聞くなら、俺も城ケ崎のことを責めたり、裁判に持ち込む気なんてないからさ」
裁判と聞いて体が震えた。
俺は泣き出しそうになりながら、また頷くと、くしゃくしゃになった自分のシャツにそっと手を伸ばした。
カバンの中にある抑制剤を打って、俺は学校を後にした。
行くあてなんてなかった。
いつも困ったことがあれば樹に相談したけれど、今日はそれもできない。
ふらふらと商店街を歩いているうちに、誰にも見つからずに休める場所を思いついた。
近くの雑木林の、大きな杉の木の下。
ここは幼い頃、俺と樹の秘密基地だった。
大きな石を二人で運び、椅子の代わりにした。
特等席なんてはしゃいでたっけ。
俺は杉の木の下にまだ置いてあったその石に座った。
杉の木に寄りかかり、ため息をつく。
また体の奥の熱がくすぶり始めた。
抑制剤は一本しか持っていないし、使ってしまった。
手の中には充電の切れそうなスマホ。
そういえば蔵元は連絡すると言っていたが、俺に電話番号さえ聞かなかった。
一体蔵元はどうやって俺に連絡するつもりなのだろう。
そんな当たり前のことさえ先ほどの俺はパニックになっていて、考えられなかった。
これから一体、どうしたらいいんだ。
俺は襲ってくるヒートの熱に耐えるように、唇を噛みしめ、膝を抱えた。
辺りが真っ暗になり、満天の星空の下で俺は一人、ヒートに耐えていた。
スマホで時刻を確認しようとしたが、充電が切れてしまい、画面には何も映らなくなった。
もう日付が変わっている頃かもしれない。
ただただ自分の身に起こったことが信じられなくて、混乱して、蔵元に強く言われるがままに俺は隠れた。
でもそれは間違いだったのかもしれない。
早く病院に行ってアフターピルを飲まなければ、妊娠する可能性だってあるのに。
でもこんなヒートの香りをまき散らせながら街中を歩くのか?
また襲われたら?またあんな目にあってしまったら?
俺を見下ろして楽し気に笑う蔵元を思い出し、ぞっとした。
俺は一体どうすればいいんだ。
心の中で強く樹の名を呼んだ。
でもその樹にはこんな状況を一番知られたくはなかった。
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