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第13話
ごくりと唾を飲み、俺はそれに触れようとした。
「城ケ崎……」
ふいに名を呼ばれ、急に意識がはっきりとした。
こんな風に他人行儀に俺のことを呼ぶ奴に、俺は自身を捧げたくはない。
俺が、俺が欲しいのは。
なけなしの力で、蔵元の胸を押した。
突然で驚いたからか、俺より体格のいい蔵元がよろめく。
その隙に、俺は扉へと走った。
ドアノブに手をかけた瞬間、襟首を掴まれ引き戻される。
床に押し倒された俺の上に、蔵元が覆いかぶさり、俺の両手首を一つにまとめて、自分の手で拘束する。
「抵抗するふりとかやめろよ。どうせオメガなんて、いれてやった途端、みんなよがり狂うんだ」
蔵元が俺のシャツのあわせに手をかけ、一気に引き裂く。
床を転がっていくボタンを俺は目で追った。
ズボンと下着を引き下ろされ、蔵元の熱が体内に無理やりねじ込まれる。
多分俺は叫んだ。
でもそこから先の記憶は酷く曖昧だった。
それからどれくらいの時間が経ったのか。
気がつくと俺は床に全裸でぺたりと座り込んでいた。
内股を濡らす自分と蔵元の精液が気持ち悪かったが、拭う気力もおきない。
蔵元は自分の衣服を整えると、舌打ちした。
「早く服を着ろよ。こんなところ見られるわけにいかないんだ。俺には許嫁だっているんだからな」
蔵元はしゃがみこむと俺の両肩を掴んだ。
「あとで連絡するから、城ケ崎はどこかに隠れていて。いくら城ケ崎のせいでこうなったとしても、ちゃんと病院には連れて行くつもりだから」
ぼんやりと宙を見つめる俺に蔵元は焦れたのか、俺の体を強く揺さぶった。
「聞いているのか?親や友達に自分がフェロモンレイプしたなんて、城ケ崎だってばれたくはないだろっ?」
フェロモンレイプとはオメガが気になるアルファの前でわざとヒートを起こし、襲わせ、既成事実を盾に婚姻や番契約を迫る、一種の犯罪行為だった。
俺は友達と聞いてすぐに樹の顔を思い浮かべた。
こんなこと樹には死んでもばれたくない。
俺は蔵元から目を逸らすと小さく頷いた。
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