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第59話
それから外出に必要な物をトートバッグに詰め、唯希をベビーカーに乗せて樹の大学を目指した。
唯希は大好きなパパに会えるのが嬉しいのか、電車の中でもぐずったりせず、ご機嫌に過ごしていた。
大学の最寄り駅に着いた俺は少し緊張していた。
樹の大学を訪ねるのはこれが初めてだった。
樹は唯希のことは大学でオープンにしていると言ったから、俺達が来てもそう驚かれたりはしないだろう。
でもなんだかなあ。
大学生活を過ごしている樹を目の当りにしたら、変に気おくれしてしまいそうで。
俺だって本当なら樹と同じ大学生をやっていたわけで。もちろん唯希は可愛いいし、今の環境に不満なんてない。
ならなんでそんなことを考えてしまうんだろう。
思考がぐるぐるとまわり、幾分暗い表情で俺は改札を抜けた。
「マコ。パパ?」
「うん。パパにもうすぐ会えるよ」
そう返すと唯希はあうあうと嬉しそうな声を上げた。
大学の門が見えてきたので樹に連絡を取ろうと思ったら、既に樹はそこにいた。
「パァパ」
唯希の大声に樹がにっこりと笑う。
「唯希。会いたかったぞ」
樹はこちらに駆け寄って来て唯希を抱き上げた。
「きゃー」
唯希が嬉しそうに叫ぶ。
「俺には?」
ふざけて言うと、樹は俺の口にチュッとキスをした。
「もちろん真にも会いたかったよ」
突然のキスに俺の顔が真っ赤に染まる。
「外ではこういうことすんの止めろ」
樹が声をたてて笑う。
「昼飯まだだろ?食堂で一緒に食べようぜ。すごい美味いっていうわけじゃないけどさ」
唯希の乗ったベビーカーを押しながら先導する樹のあとに俺が続く。
「いいの?唯希かなり騒ぐと思うけど」
樹に再会してから唯希は興奮しているのか、ずっと赤ん坊特有の甲高い声を上げ続けていた。
「大丈夫だよ。もとから食堂は騒がしいし」
「パパ、まんま」
「うん。ご飯食べような」
樹はご機嫌な唯希と話しながら、俺に微笑みかけた。
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