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第61話

 月村さんに唯希を抱っこしていいか尋ねられ、機嫌の良さそうな唯希を渡すと、危なっかしい手つきで自分の胸に引き寄せた。 「本当に可愛いね」  月村さんの長い髪の先を弄っていた唯希を見つめながら、呟くように彼女が言う。  その言葉に樹がしみじみと頷く。 「ああ、うちの唯希は世界で一番可愛いんだよ」 「あはは、成澤くんが親馬鹿発言してる。唯希くんっていうんだ。よろしくね」  きゃっきゃと笑う唯希の頭を樹が撫でる。 「よろしくだってさ。唯希」 「パパ。マコ。よろ。ううっ」  唯希は機嫌良さそうにお喋りをしていたと思ったのに、ふいに表情を曇らせた。   ぎゃん泣きを始める前の予感に、樹が唯希を月村さんの膝から抱き上げた。 「わあ、わああああ」  唯希の泣き声が食堂にこだました。  樹はそんな唯希の腹に顔を埋める。 「やっぱり。うんちしてる」 「本当に?じゃあ、俺替えて来るよ」  樹が首を振る。 「いや、俺が行くからいいよ。オムツ貸して」  オムツとおしりふきを手渡すと、樹はあっという間に食堂の奥へと消えて行った。 「ねえ。あれ誰?」  月村さんの言葉に前の席の男子学生が苦笑する。 「驚くよな。いつもの成澤と別人っていうか」  俺が首を傾げると、男子は焦ったように手を振った。 「いや、あいつの悪口とかじゃないんですけど。成澤っていつも淡々としててクールだから、てっきり家でもそんな感じなんだろうなって。でも今日のあいつ見たら、自分の子供にはでれるんかみたいな新鮮な驚きってか」 「ゼミの飲み会に一度も出席しないのも頷けるわ。家であんなに可愛い天使が待ってちゃね」  月村さんの言葉に周りの友達が一斉に頷く。  俺は樹の話を聞いたり、唯希を可愛いと言われた嬉しさから顔を赤らめ、ただ小さく頭を下げた。

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