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第82話

「なに、勝手なこと言ってんだよ」  俺は怒りで頭の中が一瞬真っ白になった。  再会した蔵元は本当に自分の都合でばかり話を進めるとは思っていたが、こんな一方的な提案、受け入れられるわけがなかった。 「無理にきまってんだろ。唯希はお前になんか渡さないっ」  話合いは終わりだとばかりに俺は車のドアに手を伸ばした。 「本当にそれでいいの?」 「当たり前だろ。早くここ開けろよ」  ロックがかかっているらしくドアが開かない。 「城ケ崎はそれでいいと思っても成澤はどうかな」  俺の背に覆いかぶさるようにして蔵元が俺の手の上に自分の手を重ねる。  振り返ると予想以上近くに蔵元の顔があった。  真っ青な瞳が深海を思わせるように、薄暗く染まっている。 「さっき初めて会った時驚いたよ。唯希の容姿は俺そっくりなんだね」 「だからどうした」  平静を保とうとする俺の声は震えていた。  くすりと蔵元が笑う。 「あのさ、他の男のコピーみたいな子供を愛せる人間が本気でいると思ってるの?城ケ崎ってどこまでおめでたい思考してるんだよ」  カッとした俺は声を荒らげた。 「樹は唯希のことをちゃんと可愛がってる」 「可愛がってる振りはできるだろうさ。でも本音はどうかな。城ケ崎は俺の考えを勝手だって言う。けど城ケ崎だって十分自己中心的な考え方をしていると思うよ。俺だったらあんな俺そっくりの子供の親になってくれなんて、成澤には絶対頼めないけどなあ」 「俺達のこと何も知らないくせに」  言い返す俺の声は小さくなった。 「だからさ。俺が唯希のことを引き取って育てるのが一番なんだよ。成澤と城ケ崎の間にも子供が生まれたんだろ?なら唯希は邪魔者じゃないか。このまま生活していたら唯希も成澤も不幸になるだけだ」

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