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*****  「やです」 「テツヤ!」 「・・・ねがい、征さま」 「・・・・・・ダメだ。オレ自身が一番オレを信用できない」 「壊れ、てもい・・・いちどきり、でいい、からほんと、のお嫁様にして・・・ほし・・・」 「(蜜の甘さを知ったが最後・・・それなしにはいられなくなるのが分かりきってるから、必死で自制しているというのに)はぁ~・・・まったくお前ときたら「・・・だって・・・」」 「ん?」 「ボク、だってそれくら、い・・・征さまが好き、だから」  だからたぶん気持ちは同じくらいだし、ボクだって妖怪の端くれだから。だから受け止めてみせます。それにもしなにかあっても、征さまのお力をもってすればどうにかなるでしょう? とかなんとか――見積もりがあまいにもほどがある皮算用=甘言で、赤司の理性をぐずぐずに溶かそうと必死なテツヤであるが。 だが返ってその行き当たりばったり感こそが、赤司にとっては光明となり得たというか・・・しかるに。 「なるほど。オレの妖力か」 「はい。ボクを雪山で助けてくださったときみたいに「いや、そうじゃなくてね」」 「?」 「これから先永劫にというのはムリだが。お前と情を交わす間だけとかであれば――ああそうなればあらかじめ・・・多少なりと力の発散もできる、か。ふむ・・・一石二鳥じゃないか」 「???」 「ものは試し。早速変化させてみるとしよう・・・ね? テツヤ」  征さまはいったい何をおっしゃられているのか・・・さっぱり意味が分からないと言った風情できょとんとしてみせる童の湿ったほっぺをさも愉快そうに両手で挟みこみながら、口の中でなにやら小さく呪文のようなものをぶつぶつ唱える。そして――。  「へん・・・げ? ・・・って、わぁ!!」 「ああなんてことだ・・・オレが大事に大事に慈しみ育ててきた花は白百合だったか――」  赤司が施した術により。干支一間回り分ほど時を進め、一時的にではあるが大人(*元服の年齢が12~16歳のため)の身体に変化したテツヤが纏う・・・いっそモノノ怪とは思えぬほどの清楚さや、品位漂う美しさを・・・。 『いやはやまいった。まさかここまで――』と感嘆の溜息を吐きながら見上げると同時に。 『それにしてもまずいな・・・童の姿ならまだ自制も可能だったが、こうも美しく艶かしい姿を魅せられては・・・もうどうにも抑えが利きそうにない』  (初)恋とはかくも・・・千年生きた大妖怪さえいとも簡単に翻弄するのか――なんとも興味深いことだし。そうやって己を振り回すテツヤの存在が、ますます愛しくそして稀有に思えて仕方ないと・・・。  ・・・胡座の上に腰掛けたままの体制で・・・突然すらり伸びた己の肢体をきょろきょろとびっくり眼で観察する無垢を――一瞬で足の先から頭のてっぺんまでそれ一色に染まった・・・感じたことのないほど強烈な欲望に突き動かされ、がっつくように・・・その細身の身体を荒っぽい仕草で布団の上に組み敷いて――。 「・・・・・・征さま?」 「テツヤが望んだ通りに――今からお前を抱くが・・・覚悟はいいね?」  こうなったからには、もうなにがなんでも止まらないからなと――のしかかった肢体の・・・その透き通るような肌の白さや、艶めかしさにくらくら眩暈を覚えながらも・・・欲に濡れ切った低音で何とか意思を伝えると。 「もちろんです征さ・・・んぅ?!」  テツヤの承諾の言葉すら最後まで聞き届ける猶予すら惜しんで、そのいかにも甘く瑞々しそうな桃色の唇を奪ったのを皮切りに――その日はまさに一昼夜・・・わらしに施した術が解けるまで。 果てることを知らない欲望に任せ、嫁御となったテツヤが醸し出す甘露に溺れ切った総大将様である。  が・・・こんな具合に見事初恋を実らせた赤司の次なる野望は、新妻となったテツヤに「征十郎」と呼びすてにされることであったりする――。 ー了ー

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