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Hayato × Sakuya

 向かい合って仕切り直すみたいにキスをして、何とも照れ臭く笑い合って見つめ合う。  どちらからともなくもう一度交わしたキスは、欲にまみれて深く濃くなって、互いの味が混ざり合って分からなくなるくらいに長く続いた。  それなのに唇が離れた途端にまた欲しくなって、何度も何度も唇を交わす。  唇の感覚がおかしくなりそうなんて頭の片隅に思い浮かべて笑いながら、優しい手のひらに促されてそっとベッドに仰向けに倒れ込む。背中を支えてくれる隼人の手のひらも、愛しくて優しくて。  唇を重ねたままで肌に伸びてくる手のひらにぴくりと躯が跳ねるのを、隼人は愛おしそうに眺めては、もっと感じてと妖しく囁いて手のひらを滑らせていく。  切なく震える中心を敢えて無視するつもりらしい意地悪な手のひらは、だけど直接的じゃないくせにいとも簡単にオレを高みへと昇らせる。  口づけの合間に溢れる声を隠すつもりで食いしばっていたのに、我慢しないでと囁かれて、恥ずかしいながらも素直に零す。  自分でも恥ずかしいくらいにオンナノコめいたその嬌声(こえ)を、だけど隼人はからかいもせずに嬉しそうに聞いてくれるから。  堪えようと力を入れていたどこかから、そっと力が抜けていくのが分かる。 「大丈夫だから。もっと気持ちよくなって」 「はやと、は?」 「オレはもう……咲哉が気持ちいいって出してくれてる声が、気持ちいい」 「っ……」 「だから、我慢しないで、聞かせて。全部」 「ぁっ、ッン」  聞かせてと言いながら、隼人は思い出したみたいに唇を塞いでは、舌を絡めて吸い上げてくすぐるみたいに口内で動いては弄んでいく。  身体中の至る所を丹念に探っては、オレのスイッチを掘り起こして、ひとつひとつ丁寧にスイッチを入れていく隼人の指先が。  触れられないままでとろとろと白濁を零していたそこに、ようやく触れられた瞬間に欲が自分の腹を汚した。 「ぁ、ぁ……ッあ」 「ごめんね、焦らし過ぎたね」 「ぁ……ッ、ァ」  飛び散った白濁を指で掬ってぺろりと見せつけるみたいに紅い舌でゆっくりと舐めた隼人が、柔らかく眼を細める。 「あまいね」 「ま、た」  そんなこと言ってると、そっと笑う。  オレに唇で触れるたび、舌を這わすたび。  うっとりした表情で甘いと呟く隼人を、呆れ半分照れくささ半分で見つめる。 「ホントだよ?」  にっこりと笑って、もう一度白濁を掬い取った指先。 「舐めてみる?」 「やっ」  ばっと蕩けきっていた腕で顔を覆って腕の隙間からそっと覗いたら、ふっと笑った隼人が、やれやれ、なんて顔をして、また見せつける舌使いでその指先を舐める。  その表情にぞわぞわと背中を走った快感が、腰を揺らす。  ほんの少し前まで中心を嬲っていた舌の動きを、見せつけられて喉が鳴る。  舌の動きに魅入られたように、目を離せなくて。 「はや、と……」 「ん?」 「もっ、……と」 「ん?」 「もっと………………して」  譫言のように呟いた声は、欲に掠れた上に小さくてぎこちない。  なのに隼人は、花が綻ぶみたいに嬉しそうに笑ってくれた。  *****  小さな声ながらも可愛いおねだりに応えて中心で震えるそこに手を伸ばしたら、咲哉の腰が揺れたのと一緒におずおずと咲哉の手が伸ばされた。 「どしたの?」 「おれ、も……」 「ぇ?」 「はやとの……さわる」 「さく、や?」 「さわり、たい」 「さくや」 「はやと、も……きもちよく、なって?」 「…………もう、可愛すぎ」  敵わないなと笑って、咲哉の手の届く位置に移動する。  そろそろと伸びてきた手が熱すぎるそこに触れて、思わず歯を食いしばった。 「ほん、とに……」 「はやと?」 「やばいね、これ。頭、ふっとうする」  譫言のように呟きながら、咲哉のモノに触れていた手を動かす。  途端に聞こえてくる声と少し鈍くなる咲哉の手の動きにホッとしながら、ベッドの脇に準備していたローションに手を伸ばす。  ごくりと喉が鳴ったのは、これからすることへの期待か、それとも罪悪感かどっちなんだろう。  蕩けきった紅い顔をしながら、それでも一生懸命にオレ自身を高みへと昇らせようとする手のひらが愛しくて、それだけでももう十分に満足な気がするのに。  誰も触れたことのない咲哉の奥に、侵入(はい)りたくて仕方ない。  期待と興奮だけでイッてしまいそうなほどにいきり立ったそこを、たどたどしく愛してくれる咲哉の----最奥に。  ローションで潤した指を後ろに添えて、咲哉が違和感に気付く前に切なげに震えて揺れる中心に触れて、意識を逸らさせる。  身を委ねて快感に蕩けている姿を見つめながら、つぷりと埋めた指先。  ローションのお陰かスムーズに埋まった指先に、ひくりと震えた咲哉の眉。 「はやと」 「大丈夫。まだ指先だけ。……痛い?」 「…………へいき」  短く息を吐き出して目を閉じた咲哉が、薄く目を開ける。 「だいじょぶ、だよ」 「ん」  呟いたらまた、きゅっと目を閉じた咲哉の顔をじっと見つめたまま、傷つけたりしないようにそっと奥へ進む。 「----っふ、ぅ」 「大丈夫?」 「へい、き」 「今、指一本、全部入った」 「そう」  ぎこちなく頷いて詰めていた息を吐き出した咲哉の、オレに触れていた手は、いつの間にかシーツの上に落ちて、ぎゅっと握りしめられている。 「痛い?」 「んーん。痛くは、ない、んだけど……」 「けど?」 「なんか、苦しい」  は、と短い呼吸を繰り返しながら呟いた咲哉の言葉に、そうだろうなと納得する。  突然入り込んできた指を銜え込んだそこは、侵入してきた異物の形を確かめるかのように蠢きながら、押し返そうと藻掻いている。 「息止めないで、ゆっくり深呼吸して」 「ん」 「大丈夫。絶対痛くしないから」 「ん」  分かってるよと薄く微笑んだ咲哉が、努めて大きく息を吸ったり吐いたりするのを見守る。  ざわざわと落ち着かなかった(なか)の動きと咲哉の呼吸が、ゆっくりと落ち着いていくのを見計らって、ほんの少しずつ指を動かしてみる。 「痛い?」 「んーん、へいき」 「苦しい?」 「さっきより、だいじょぶ」  にこりと健気に笑って、意識して大きな呼吸を繰り返すのを見つめながら、萎縮していた咲哉自身に空いた方の手で触れて。 「は、やと?」 「ちょっと気分転換ね」 「はっ……----ぁンっ」  可愛すぎる声が不意打ちで漏れて、あわあわと口を覆うのが可愛い。  後ろへの刺激ですっかり萎縮していたそこは、与えられた直接的で強い刺激を喜んで貪るかのようにさっきまでの熱を取り戻していく。  熱を取り戻して震えるそこをやわやわと刺激しながら、内に埋めた指に伝わる(なか)の変化に気付いて、中心に与えていた刺激をそっと止めてみる。  ----それでも後ろは、秘やかに銜え込んだ指を控えめに締めたり緩めたりしながら、その刺激を味わいつつあるようで。  ふわりと微笑って、ゆっくりと前後に内襞を擦るように動かしてみる。 「ッア!? な、にッ」  するりと、指先が咲哉の(なか)のどこかのスイッチに触れたときだ。  甘いくせに鋭い、短い嬌声が響いて、きゅうきゅうと切なく指先を締め付けてきた。 「……----ここ、か」 「やぁぁっ、ン、ぁ、はっ……ッァ」 「そう」 「やっ、ダメッ! そ、こっ……だめぁっ」  (なか)の反応とは裏腹な反応を見せる咲哉に、ダメじゃないよと優しく微笑ってみせる。 「今、咲哉。----中だけで、気持ちよくなってる」 「----っ、やぁぁっ」  激しく首を振る咲哉に、いいんだよと微笑んで、そのスイッチを強く擦ってみれば。  直接触れなくても呆気なく震えて欲を吐き出して、未だ(なか)にある指の存在を確かめるかのように蠢いて、またひとりでに締め付けていく。 「指、増やすね」 「もっ……や……」 「やじゃないよ。----気持ちいいでしょ?」 「あっ……」  いつの間にやら流れていた咲哉の目尻を伝う涙を、伸び上がってぺろりと舐める。 「さすがに涙はしょっぱいね」 「……」 「スナオになってよ、咲哉」 「だって……」  オンナノコみたい。  そんな風に悔しげに呟くのが可愛くて、尖る唇を軽いキスで塞ぐ。 「オンナノコだなんて、思ってないよ」 「……でも……」 「男でも女でも……気持ちよかったら声が出るもんでしょ」 「け、ど……っ」 「嬉しいよ、オレ。咲哉が気持ちよくなってくれたら」 「うれ、しい……?」 「オレだってさっきから……咲哉の気持ち良さそうな声と顔で、もうずっと……こんなんなってる」 「あ----」 「気持ちよくなってよ、咲哉。そんで、オレのコレ……イれさせて」 「はやと」 「咲哉に----オレの全部、刻ませてくれる約束だよ」 「--------あぁ……」  無理矢理触れさせた手に己を擦りつけるように腰を動かしたら、咲哉が蕩けた溜め息を吐いて。  発情しきって潤んだ目で、頷いてくれる。 「やく、そく」 「うん。だから、気持ち良くなって、咲哉」 「んっ」  わかったと音にならずに動いた唇が、オレの唇に吸い付いてくる。  無我夢中なそのキスに追い立てられる欲望をぎりぎりのところで抑えつけながら、咲哉の中を丹念に解していく。  やがて3本入った指を、自在に動かしても嬌声しか零れなくなってきた頃。  途中で何度か吐き出した白で汚れた咲哉の躯は、とんでもなくいやらしいのに、とんでもなく綺麗で。  うっとりとその躯に見とれながら、もうこれ以上我慢できないのだと囁いたオレを。  迎え入れるように手を伸ばした咲哉は。 「オレも……もう……我慢できない」  泣き笑う顔でそう囁いて、オレを(なか)へと導くようにゆらりと腰を上げた。 「----来て、隼人」  *****  このベッドに横になってからどのくらいの時間が経ったのかすら分からないほど蕩けた頭で。  だけど隼人が我慢に我慢を重ねて、丹念に自分の中を探って解してくれている、その優しさと愛おしさを噛みしめて。  我慢できないと囁いた隼人を、狂おしいほどに強く求めて手を伸ばした。 「----来て、隼人」 「さくや」 「刻んで。----約束」  ゆらりと腰が、勝手に動いた。  ハシタナイ格好だと、自覚して熱くなった顔を。  けれど隼人から逸らさず、真っ直ぐに見つめる。 「全部」  刻んでと繰り返したら、泣き笑いの表情になった隼人がどこからか取り出したゴムを自身に被せて、その上からローションを塗し付ける姿をじっと見つめ続ける。  何もかもを、見ていたいと思った。  隼人が、オレに刻んでくれる瞬間を、全て。見ていたいと----心にまで刻み付けたいと、思った。  後ろにぴたりと宛がわれたそれは、ローションのせいでひやりとするのに。  その奥にある隼人の熱さに、ローションがとろりと溶けていくのも分かる。  何かに気付いたみたいに顔を上げた隼人が、ふわりと笑ってオレの頭を撫でてくれるのがくすぐったい。 「はいるよ」 「ん」  ふわりと笑ったタイミングで言われて、笑ったままに頷く。  それを確かめた隼人が、真剣な目でオレを射貫いた。 「力抜いてて」  つぷ、と入ってくる圧迫感。  指とは違うその圧力に、分かっていても息が詰まる。  目聡く気付いた隼人が、困った顔で笑って 「咲哉」 「ん? ----ッン」  優しくて柔らかくて欲のかけらも感じられない----幼い子供が戯れに交わすような。軽くて、なのに愛情に溢れたキスをくれる。  ----あぁ、なんて。  幸せなんだろうと思った一瞬を狙って、埋められた全てが。 「----------------ァッア」  指では届かなかった奥を拓いて、指では感じられなかった熱さと質量で。  オレの中に、隼人を刻んでくれる。 「-------あぁ、やばい。ふっとうする、こんなの」 「はや、と……」 「こん、なの……反則」 「はやと?」  耳の傍で呻いた隼人が、オレを押し潰さないようにと気遣いながらも、ずぶずぶとオレに覆い被さってくる。 「はやと?」 「動いちゃダメ」 「?」 「イッちゃうから」 「はやと」 「ダメ。しゃべんないで」 「ふっ」 「----ダメって!」 「え?」  そっと嬉しくて笑ってしまったら、とくとくと後ろに埋められたそれが、震えたのが分かる。 「……はやと?」 「だから、動いちゃダメって言ったのに」  今まで一度も聞いたことのないような情けない声でぼやいた隼人が、ちょっと出ちゃった、としょんぼり耳元で呟くのが愛しくて可愛くて。  ぎゅっとその躯を抱き締めて、胸に顔を擦りつける。 「ちょっ、咲哉!?」 「かわいい、はやと」 「なっ」 「------------だいすき」 「--------------------っとにもうっ」 「わっ!? ちょっ、まっ----あぁあっ」  怒ったみたいな顔でいきなりズルリと腰を引いた隼人が、抜けるギリギリで引き返してまた奥へと打ち付けてくる。 「まっ……って、はや、とぉ」 「まてない」 「はや」 「なんであんな可愛いことすんの、反則」 「はんそく、って……っぁ」 「も、むり。どんだけ我慢したと思ってんの」 「まっ……って」 「なのにあんな可愛いこと。オレのこと、どんだけ煽ってんの」 「は、ぁっ、やとッ」 「----全部」 「ぜん、ぶ?」 「全部。出し尽くすまで、止まってやらないから」 「まっ----ンッ」  一度も乱暴にしなかった隼人が今になって急に獣の顔して、オレの全部を貪るみたいに腰を動かす。  オレの顔の両隣についていた手は、いつの間にかオレの躰を這うように撫でながら、オレのスイッチをまた端から端までひとつずつ全部をオンにしていく。  一番わかりやすいスイッチもしごくみたいに責め立てられて、声と息が続かない。 「イぁっ……はやとっ……はやとぉ」  苦しくて叫ぶ声も無視してオレを攻め続ける隼人が、嬉しそうに笑った。 「オレなしで生きてけないカラダにしてあげるから」  煽ったこと、後悔しても遅いからね。  意地悪い声が囁くのを聞いて、弱々しく震えた自分自身から少なくなった白濁がとろりと零れるのを呆然と見つめていた。  *****  ぐったりとベッドに沈んだ咲哉を、同じくぐったりとベッドに沈んで見つめる。  涙の跡の残る頬に触れて、意識を飛ばす寸前の掠れた声を思い出す。 『はや、との、ぜんぶ……ちゃんと……くれた?』 『さくや……』 『ぜん、ぶ……?』 『うん』 『ありがと』  無邪気に笑って力尽きて目を閉じた咲哉のあどけない笑顔に、浮かんだのは満足感より罪悪感だ。  ハジメテの躯に、どれだけの負担をかけたんだろう。  我に返ってあたふたと躯を拭いてやりながら、煽られたとはいえ無茶をした自分を責めるしかない。  罪悪感に喘いだつもりで吐いた息が、みっともなく震えて。 「…………はやと?」  掠れた声を上げて目を開けた咲哉が、オレの顔を見るなり目を見張った。 「どして、泣いてる?」  優しく拭ってくれる指先が辛くて、咲哉から顔を逸らす。 「ごめん」 「はやと?」 「むちゃくちゃした」  ごめんと呻いて、ぐいぐいと顔を擦る。  拭ってもらう資格のない涙だ。  自分勝手に貪って、疲れ切るまで負担をかけた己を悔いて恥じる涙なんて。  咲哉に、見せる訳にはいかないのに。  ふわりと。  背中から抱き締めてくれる優しくて華奢な腕が、オレの情けなさを刺激する。 「オレだよ」 「なに、が……」 「全部刻んでって、言ったの。オレだよ」 「さく……」 「隼人は悪くないよ」  すり、と頭を背中に擦りつけられて、猫めいたその仕草とくすぐったさに、ふ、と小さな笑いが零れる。 「はやと」 「ん?」 「オレ今、幸せだよ」 「さくや?」 「全部。刻んでもらった。隼人の、全部」 「さくや」 「幸せなんだよ」  一生懸命に紡がれる声が愛おしくて、涙の名残を拭いてからくるりと躯を反転させる。 「オレも、幸せだよ」 「ん」  こちん、と額に額を寄せたら、はにかんで頷いた咲哉が、柔らかく笑ったままでうっとりと目を閉じる。  そっと笑って優しく唇を重ね合わせて、その華奢な体を思い切り抱き締めた。 「大好きだよ」

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