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Hayato → Sakuya

 走り去った柏木を見送った後、 「二人っきりにならないでって、言わなかったっけ?」  タシタシと歩いてきた隼人が、何もかも分かったみたいに苦笑しながらオレの頭をわしっと掴む。 「ずっと階段にいたんでしょ?」  二人っきりじゃないよと笑ってみせたら、ふん、なんてわざと拗ねて鼻を鳴らした隼人が、掴んだままだった頭をわしわし撫でてくる。 「ホントに咲哉は、可愛いこと言ってくれるよね」 「でしょ」 「----っとにもう」  こちん、と。  おでこに隼人のおでこが軽くぶつけられて、至近距離で見つめてくる真摯な目に縫い止められる。 「約束守んなかった子にはおしおきだね?」 「おしおきって?」 「さぁ----なんでしょ」  にやり、と意地悪く笑った隼人が、電光石火のキスを唇に落として。 「ちょっ、ここ、がっこ……っ!」  わたわた引き離したはずのおでこは、だけど体ごと抱き寄せられてまたすぐにひっつく。 「ホントに。咲哉って苛めたくなるくらい可愛いから、困っちゃうね」  にこりと笑う隼人の顔は、唇は綺麗に笑ってるのに目がとんでもなく妖しい光に満ちていて、背中がゾクゾクする。 「ここ、がっこ……」  もう一度、さっきよりも小さく呟いた声に笑った隼人が。 「知ってるって、言ったらどうする?」  耳元。  意味深な吐息と一緒に吹き込まれて、膝が砕けそうになる。 「ば、っか……!」  ぐぃ、と。  渾身の力で胸を押そうとしたはずなのに、呆気なく隼人の手に腕を取られた。 「こんなんで、よくもまぁ二人っきりになってくれたよね」 「はなせ、って」 「柏木におんなじことされてたら、逃げられなかったよ?」 「はな、せ……っ」 「だいたい、今朝だってさ」 「けさ?」 「柏木と! 目ぇ合った時、照れたみたいに顔逸らしてた」 「あれはっ……すき、とか……思われてたのかって……ちょっと照れ臭いっていうか、気まずいっていうか……」 「ふぅん?」  腕を掴む手に、ギリギリと力を込められて。 「隼人、いたい」 「----分かってんの?」  怒ってるって。  低い声で囁いて、ぽい、と投げ捨てるみたいに腕を離されてよろめく。 「はやと……っ」 「帰るよ」 「はや」 「帰ったら、今日はもう容赦しないから」 「はや、と?」 「祭りの日みたいに、なにもしないでは、帰してやらないから」 「----っぁ」 「可愛がってあげるよ、たっぷり」  振り向いた妖艶な笑顔に、逆らえずに喘ぐ。 「かわい、がる……」 「そ。咲哉がいったい誰のものか、教えてあげるよ」  もたつく足でついていくオレを、ぐい、と抱き寄せた隼人がまた。  目を逸らすことも出来ないほどに強い視線でオレを捕らえた。 「二度と、オレから離れられないように、ね」  家に鞄を置きに帰ることすら許されずに、隼人の家に引っ張り込まれて。  玄関に入った途端、玄関の扉に押さえつけられながら、とんでもなく深くて濃いキスに翻弄された。 「んっ、はやと……っ」 「なに」 「ここ、げんか、んっ」 「だったら何」  息継ぎの合間にどうにか漏らした抗議の声すら不機嫌に切って捨てる隼人は、噛みつくようなキスでオレの言葉を封じ込める。  見たことのない目をした隼人が、獣みたいに見えるから不思議で。  だけど触れてくる唇も扉に押さえつけてくる腕も----何もかもが、オレを強く強く求めてくれているんだと分かるから。  思いきって差し出した舌に、隼人は一瞬目を見張って。  だけどようやく、目を優しく細めてくれた。  名残を惜しむみたいにちゅっと音を立てて離れていった唇をぼんやり見つめて、そっと名前を呼んでみる。 「はやと」 「なに?」  さっきよりも柔らかくなった声にホッとしながら、緩んだ拘束の手を抜けてそっと隼人の背中に腕を回した。 「……咲哉?」 「ごめん、なさい」 「…………」 「ごめんなさい」 「……」  繰り返した言葉に、ふぅ、と隼人が大きな溜め息を吐いて。   呆れているのかと見上げた先に、笑っているとも怒っているとも----照れているともとれる複雑な表情(かお)をした隼人がいて。 「分かってる?」 「何を?」 「咲哉、めっちゃモテてるって」 「へ?」 「クラスの女子、大半咲哉のこと好きだよ?」 「んな訳……」 「しかも、柏木まで咲哉のこと好きだし」 「そ、れは……」  予想外の言葉にオロオロしていたら、切実な目をした隼人が、わしっとオレの頬を両手で挟んでおでこをくっつけてくる。 「オレ、恐いわ。いつか誰かに咲哉のこと獲られそうで」 「何言って」 「マジだよ。……マジで。ホントに、めちゃくちゃ恐い」 「はやと……」  おでこをくっつけたままぎゅっと目を閉じた隼人に、隙間がないくらいに強くきつく抱き締められた。 「ホントはずっと、言うつもりなかったんだ」 「何を?」 「咲哉に、好きだって」 「ぇ……?」 「男同士だからって、戸惑ってたのはオレも同じなんだ」 「隼人……」 「言って嫌われたり、気持ち悪いとか思われたらどうしよって、ホントは恐かった」  初めて聞く隼人の弱音に驚いて隼人を見つめたのに、きつく閉じられたままの目はオレを見つめ返してはくれなくて。  オロオロしながら、隼人の背中に回していた腕に力を込める。 「でも。誰かに獲られるくらいなら、当たって砕けようかなって」  乾いた笑いを卑屈に漏らした隼人が、不意に目を開けた。 「ねぇ咲哉」 「なに?」  オレを見つめる目の、強さに喉が鳴る。  このあとに続く言葉が分かるような気がして胸が高鳴るのを必死で隠したのに、結局問い返した声は掠れて。  それに気付いたのか気付いてないのか。優しく笑った隼人が、するりとオレの頬を撫でる。 「咲哉の全部、オレにくれる?」 「ぁ……っ」  分かってたはずなのに、目も手のひらも声も優しすぎて顔が熱くなる。 「オレのだって……咲哉に、刻んで良い?」  真っ直ぐに見つめてくる、ひたむきな瞳。  頬に添えられたままの、少し冷たくて大きな手のひら。  隼人から流れ込んでくる全開の愛しさが、圧倒的な流れになってオレに押し寄せる。  フラフラするのはきっと、体温が急激に上がったせいだ。  喘ぐみたいに呼吸しながら、こくりと1つ頷くので精一杯。  なのに、それだけの返事で隼人は、満面の笑みをオレにくれるから。  愛しくて仕方なくて、込み上げた涙を堪える暇もなかった。  *****  まさしく、ぽろり、という表現が似合う涙が、咲哉の目から溢れて。  涙を拭おうとオロオロと伸ばしたオレの指を、咲哉の震える手が包み込んだ。 「さく」 「……て」 「ぇ?」  なんて? と聞こうとした声は、欲に鳴った喉のせいで続かなかった。  涙に濡れて潤んだ目でオレを真っ直ぐに見つめる咲哉を前に、欲を強く刺激されていた。 「隼人のに、して」  自分がこくりと飲んだ息の音が聞こえるほどの静寂の中にあってさえ、消えてしまいそうに小さな声で。  真っ赤になった顔を、潤んだ目を。  逸らすことなくオレに告げた咲哉を、言い様のない感情の嵐に飲まれながらも強く抱き締める。 「咲哉……っ」  言葉にならなくて、もどかしく首を振る。  喜びなのか、愛しさなのか。  それとも、本当に良いのだろうかという戸惑いなのか、恐怖なのか。  けれど1つだけ絶対に、言えることがあった。 「だいすき」  抱き締めた腕の中でピクリと震えた咲哉が、ふわりと笑う気配の後。 「おれも」  だいすきと、たどたどしく紡がれたら、もう我慢なんて出来なかった。 「だ、からっ、ここっ、げんかんっ」  抗議の声を塞ぐつもりで唇を貪って、猛る自身を押し付ける。  ぎくりと体を強張らせた咲哉もまた、期待と不安に体を震わせながら熱くなっていた。 「そういえば、おじさんとおばさんは?」  靴を脱ぐ時間ももどかしいくらいに、咲哉が欲しいのに。  だけどハジメテが玄関もさすがに嫌だし、なんて自分を納得させて自分の部屋へ向かう最中。  咲哉がキョロキョロしながらそんな風に聞いてくる。 「仕事。たぶん早くても7時は過ぎるよ」 「そっか」 「そう、だから。心配しなくても時間ならたっぷりあるよ」 「っ、ちがっ、そんなことっ」  顔を真っ赤にしながらあたふたと叫ぶのが可愛くて、引き寄せて額にキスを1つ。 「分かってるよ。咲哉はホントに可愛いよね」 「っ、もうっ」  真っ赤な顔したまま怒るのも可愛くて。  怒って尖った唇を唇で塞いで、柔らかくくすぐるみたいにキスを繰り返す。  しつこいくらいに繰り返す内に、咲哉の怒っていた肩から力が抜けていくのが分かって。  ほやん、と蕩けた咲哉の目が、落ち着いていたはずのオレの欲を煽るから。 「こっち」  ぐい、と腕を引いて、自分の部屋へ引きずり込む。  よろめいた咲哉を抱き止めながらドアを閉めたら。 「もう待てないから」  囁いて、さっきまでとは違うキスを仕掛ける。 「ンッ」  ジタバタ暴れようとする咲哉の腕を難なく封じて。   カタカタと震え出す咲哉の、足から力が抜けるまでの間。  息継ぎすらろくにしないまま、咲哉の唇を貪った。  *****  へたり、と隼人の唇が離れた瞬間に、床に崩れ落ちる。  ドクドクと鳴る心臓と、上がってしまった息。熱い顔を俯けて、震える手で濡れた唇に触れる。  こんなにもドキドキして息苦しいのに、もっと、なんて思って。  ゆらりと顔を上げたら、いつの間にか上半身裸になった隼人がそこにいて、驚くよりもまずその体に見とれてしまうんだから大概だと思う。  どくん、と胸が鳴るのと一緒に、体の芯が疼いて。  落ち着くための深呼吸のつもりで息を吐いたのに、みっともないくらいに息が震えた。 「咲哉」  呼ぶ声に背中を駆けたのは、いったい何だったんだろう。 「ぁっ……っ、はやとっ」  どうしようもないほどに、ハシタナク。  どうしようもないほどに、心から。  隼人、を。  ただひたすらに求めていた。  濡れた声で隼人を呼んだら、にっこりと嬉しそうに笑った隼人が、咲哉、と優しく呼んでくれて。  伸びてきた手のひらがそっと頬を撫でてくれる。 「んっ」  くすぐったさに首を竦めたら、窺う目で隼人を見つめて。 「はやと」  掠れた声で、媚びる。 「ホント、可愛いんだから」  ふ、と笑った隼人がオレの腋に手を入れて、ふにゃふにゃになったオレを立ち上がらせてくれて 「ベッド、行こう」 「はやと」 「床が良いの?」  からかう声に、緩慢に首を横に振った。  ふわふわする床の上を、ふわふわと足を動かして、ほとんど隼人にもたれるみたいにしてベッドまでの短い距離を移動する。 「キスだけでそんなになっちゃって……この後、どうなっちゃうんだろうね?」 「ゃっ」  ちがう、と否定するはずだったのに、隼人の唇に遮られてうやむやになる。 「んっ、ふ……ぁ、はや、と」 「ホント、……可愛すぎて困る」  咲哉のせいだよ、とからかう声が笑って。  とん、と軽く胸を押されたら、隼人の匂いしかしないベッドに倒れていた。  安心感と、正反対の興奮と。  ごちゃ混ぜになって胸に押し寄せてきて、混乱するしかない。 「咲哉」  優しい声と一緒に伸びてきた手のひらに頬を撫でられて、柔らかな唇がところ構わず降ってくるのを受け止めるだけで精一杯。  くすぐったさなのか、気持ち良さなのか。判別できない感覚に、目をぎゅっと閉じて首をすくませていたら 「咲哉」 「……?」 「目、開けて」 「……」  恐る恐る目を開けたら、真正面に隼人の顔のどアップ。 「はや」 「やっとこっち見た」  嬉しそうに呟いた隼人が、愛しそうに微笑んでくれる。 「はやと」 「うん」 「はやと?」 「うん」  満面の笑みで頷く隼人は、小さな子供みたいに無邪気でいとおしい。  ふ、と自分の頬が緩んで、すくんでいた首や肩から力が抜ける。 「咲哉」 「うん?」 「大丈夫だから、オレのこと信じて」 「はやと……」 「絶対。……絶対、傷つけたりしないから」  信じてと力強く笑う隼人に、頷いて見せてから。 「大丈夫。怖くなんかないよ。ただちょっと、くすぐったかっただけ」 「……くすぐったい、だけ?」 「ぇ?」 「くすぐったかっただけ?」 「ひゃっ」  妖しい眼差しがオレを捕らえたまま、隼人の手のひらがオレの頬を撫でて、首筋を指先でなぞられる。  変な声が出た口を慌てて手で覆ったら、困ったみたいな顔した隼人が、退けて、とオレの手を掴む。 「声。聞きたいから」 「んっ、でも」 「隠さないで」 「やっ、ぁ、だ、って」 「聞かせて。全部」 「はや、っ」 「全部----咲哉の、全部、見せて」 「はっ、やと」  妖しい目から、目をそらすことも出来ないまま。  隼人の手のひらや指先に、翻弄される。  首筋をなぞっていた指が耳を撫で上げて。  ぞわりと背中を走った何かの正体を見極めようとしてるオレを無視して、制服のカッターシャツのボタンがぷつりぷつりと外されていく。 「夏服、脱がせやすくていいよね」 「な、に……ッ」  にやりと笑った隼人の顔を余裕なく見上げる頃にはシャツは前が全開になっていて、アンダーシャツはあっという間に首の辺りまで目繰り上げられる。 「すごいね、このカッコ」 「な、に……?」 「すんげぇ、ヤラシイ」 「っ、隼人がっ! やったんじゃ、っ」 「ヤバい、もう、ホントに」 「っ、ンッ、は、ぁッ……!?」  何かにとりつかれたみたいにオレの胸に顔を埋めた隼人が、オレの中の何かのスイッチを入れた気がした。  *****  曝した素肌の、透き通るような白さ。  オンナノコみたいに----むしろ、そこらのオンナノコなんかよりもよっぽど華奢な腰のライン。  胸の上で慎ましくも存在感を放っている桜色のそこに、目が吸い寄せられる。  抗えない引力が、咲哉から放たれているような錯覚。  熱に浮かされたみたいで眩暈がするのに、勝手に動いた体が自分の意思よりも先に桜色の味を確かめていた。 「ッァ!?」  驚いて上がった声。跳ねた肩。わななく唇。 「あまい」  自分の唇から零れたそんな台詞に、さっと頬を赤くした咲哉が、ふぃっと顔を逸らす。 「あ、まいわけっ、な、い、っ」  何か続けようとしたらしい言葉は、オレがまた桜色のそこに指の腹を添えたせいで最後までは紡げずに。  撫でて、擦って、摘まんで。  舐めて、吸って、時々噛んで。  触れるたびに声をあげて震えるのが可愛くて。  ねちねちと苛めるみたいに、弄ぶ。 「ひ、ぁ、ぁ……ッ、やと」 「あまいよ、凄く」 「だ、からッ」  甘くなんてないと言い募ろうとしたらしい唇を塞いで、舌を絡める。 「ふっ、は、ぁ」 「あまいでしょ」 「しらないっ」 「強情」  荒い息の合間に叫ぶ咲哉の潤んだ目に煽られながらも、余裕めかして笑って見せる。 「じゃ、もっかいね」 「やっ、も……ッ、は、やとぉ」  宣言して唇を胸に寄せたら、跳ねて震える体を押さえつけて思う存分責め立てる。  しつこいくらいに舐めてしゃぶって、抵抗していた腕からへたりと力が抜けるのを感じてようやく顔を上げる。  真っ赤になった顔と、潤みきった目が下半身を否応なしに刺激してくる。 「はやとぉ」  ねだる声は、蕩けきって甘い。  荒い息を繰り返す咲哉に口づけて、味わった桜色の甘さを咲哉にも擦り込むように舌を絡めてやる。 「ンぅ……っふ、やと」 「あまい?」 「ぁ、まい?」 「咲哉は、どこも甘いよ」 「わかんな、……から、…………もっ、と……」  ねだるようにうっとりと呟いて両手を伸ばす咲哉が、可愛くて愛しくて。  堪らずに押し付けた唇とねじ込んだ舌を積極的に吸われて、疼く熱を咲哉に押し付ける。  途端にびくりと腰を揺らした咲哉を、唇を離してそっと見つめた。 「…………ここも、甘いのかな」 「ひぅっ……ぁ、……ア」  既に熱く自己主張していた咲哉の中心に手を伸ばして、ズボンの上から撫で擦る。  潤みきった目を見開いてパクパクと喘ぐ唇を見つめて、にっこりと笑う。 「もう、こんななんだね。気持ちよかった?」 「ぁ……っぅ、あ……ッ」 「敏感だね、ホントに」 「やっ……ぁっ、だ、めッ」 「なに? ダメなの?」 「だめ……」  からかう声で何がダメなのと追い詰めながら、撫でる手を早くする。 「やっ……っ」 「イッちゃう? もう?」 「ゃめ……----だめッ」  涙目で縋る咲哉を無視して、ズボンの上からでも形の分かるそこを布地ごと掴んでしごく。  切羽詰まった声でダメと叫ぶ咲哉をあっさり無視して胸の飾りと同時に攻めあげたら、呆気ないほど簡単に布地を濡らした咲哉が、一際高い声で啼いた。 「っ……いじ、わるっ」 「でも気持ちよかったでしょ?」 「っ……、もっといじわるっ」 「ごめんごめん」  くったりと枕に沈んで顔を覆う咲哉の腰から、ズボンと下着を剥ぎ取りながら笑って。  白濁に汚れた下着は、さすがにからかうことなくそっとベッドの下に落としておく。 「ねぇ」 「……何?」 「舐めるね」 「へっ!? ----っや、ッッ」  一応の断りだけ入れて欲を吐き出したばかりのそこに口付けたら、「舐める」なんて宣言したくせに丸ごと口に含んでしまう。 「は、なしてッ----ダメっ!」  汚いから、とどこかの漫画みたいな台詞を叫ぶ咲哉に、そっと笑って 「汚くなんかないよ」  自分もまた何かの漫画みたいな台詞をそっと囁き返す。 「やっ……はやと!」 「……あまいよ、やっぱり。咲哉の、ここ」 「っ……」  すごく甘いよとウットリ笑ったら、手と口でやわやわと刺激する。  ふるふると頭を振りながらもどかしそうにシーツを掴んでいた手の平が、オレの頭を掴む。  ゆるゆると揺れる腰は、物足りない刺激への無言で無意識の催促だろう。 「どうしたの?」 「ぇ?」 「腰。揺らして」 「っ、ちがっ」 「手も」 「手?」 「オレの頭、押さえつけて。----もっと、して欲しいの?」 「----っ、ち、が」  ようやく自分の行動に気付いたらしい咲哉が、慌てたように手を離して腰の動きを止めるのをそっと笑う。 「いいよ」 「何が?」 「おねだりして」 「っ」 「もっとしてって……言って?」 「ぁ……ゃ……だっ、て……」 「可愛いね、ホントに」  壊しちゃいそうと物騒な台詞を吐いて、ふるふると震えながら欲を示すそこに、また唇を寄せる。 「ぁ、あ……----ッ」  素直に快感に身を委ねる咲哉の。  後ろにそっと、指を添えたら。  途端にギクリと強張った躯。 「な……に……?」 「ここ」 「そ、こ……?」 「オレが、入るとこ」 「っ……」  咲哉の顔が引きつるのを見ながらゆっくりと自分のズボンのチャックを下ろして、興奮しきった自分自身を咲哉に見せつけるようにして取り出す。 「や----っ……むりっ」  そんなの入んないと涙目で狼狽える姿が、可愛くて可哀想で----なのにもっともっと苛めたくなるから不思議だ。 「大丈夫。ちゃんとゆっくり、時間かけて解すから」 「むり」 「無理じゃないよ」 「むりぃ」  がくがくと首を振るだけの咲哉の手を取って、強引に滾る熱に触れさせる。 「あつっ……」 「そう」 「?」 「こうしたの、咲哉だから」 「ぁ……」 「責任、取ってくんなきゃ」 「あ……」 「さわって、さくや」 「はや、……」 「さくや」  さわって、と。  切なげに囁いてみせたら、こくりと喉を鳴らした咲哉がぎこちない動きでオレの欲の塊にその細い指を滑らせる。 「----っ、そう……もっと、さわって……さくや」 「あ…………ぁ……きも、ち、いい、の?」 「当たり前じゃん」 「……」  おずおずとオレを見ていた咲哉に、そっと笑ってみせれば。  そっと躯を起こした咲哉が、手のひら全体を使ってオレ自身を包んでくれる。 「っ……さくやッ」 「はやと……」  ぎこちないながらも上下に手を動かしてオレの顔を伺ってくれる咲哉の顔に触れて、髪をさらりと撫でてやる。 「きもちいいよ」 「----っ」  うっとりと呟けば、ぱっと嬉しそうに顔を綻ばせる咲哉が可愛くて愛しくて仕方ない。  触ってと言っておきながら、愛しさに負けて咲哉を抱き寄せて顔中に唇を寄せる。 「はやと」 「大好き、さくや」 「はや」 「あいしてる」 「--------っ」  耳元。  囁いた途端に耳まで真っ赤にした咲哉が、触れたままだったそこから手を離してオレの背中に腕を回してくれる。 「ぉ、れも」 「ん?」 「ぃ、すき」 「ん」 「はやと、だぃすき」 「ん」  たどたどしくも愛情に溢れた声に、顔が緩む。  抱き締めた腕の中でもぞもぞと動いて首を伸ばした咲哉が、オレの耳元。  ちゅっと音を立ててキスをして。 「ぁ、ぃ……してる、よ」  蚊が鳴くほどの小さな声で、オレの心を満たしてくれた。  *****

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