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第6話『初めての試み』

 智治(ともはる)優大(ゆうだい)大地(だいち)の3人はバドミントンサークルの創設メンバーである。三ツ橋(みつはし)大地には歳の離れた妹がいて、その面倒を見なくてはならないが運動もしたいということで融通が聞くように新しくサークルを作ったのだ。  なんとなくで作ったし、好きな時に来れて好きな時に帰れるゆる~い活動内容で飲み会などもしないと紹介ポスターに書いてあるし、これといって勧誘活動もしていない。  それなのに加入者が結構いるのはおそらく、というかほぼ確実に智治、角谷(すみや)智治のせいである。その理由として加入者の8割が女子なのだ。後の2割はその女子目当ての野郎どもといった構成だ。正直、コートが2面しか用意できないため、大地は思うように遊べなくなるんじゃ無いかと不安だったが、女子は智治が居ないと分かれば帰ってくし、居ても見るのに夢中で全然バドミントンしてないので案外なんとかなっている。その智治も、最近はなんだか様子が変で全然遊びに来ない。優大の方はマイペースで気まぐれだからいつ来るのかわからないし、来ても見てるだけの時もある。  人数の割に大地1人しかいなくてバドミントン出来ない時が続いているのでとても退屈していた。  今日は週末で親が家にいるので妹の面倒を見る必要がない。バドミントンをするために約2時間かけて大学にやってきた大地はネットをなんとなくで張る。遊びでやる分には特に問題はない。ネットを張り終わると、しばらく暇になる。休日だからわざわざバドミントンしに学校に来るやつなんてそうそういない。だが、何故か休日にしか遊びに来ない奴が1人いる。田神(たがみ)隆則(たかのり)だ。寮生だから来やすいってのはあるんだろうけど、なんで休日にしか来ないのか全く検討がつかない。だけど、ここ一週間全然遊べて無かったのでこの日が待ち遠しかった。田神が来るのがいつも大体10時頃、後30分ほどある。大地はいつも通りウォーミングアップを始めた。 「...ちわ。」 いつもの時間に隆則は体育館にやってきた。バドミントンをしたくてうずうずしていた大地は、いつもより明るく挨拶を返した。 「おう!田神に会えるのを楽しみにしてたんだ!準備運動はしてきたか?」 「え?いや、ま、まだ。」 隆則は、いつも準備運動は来てからやっているので大地の意味のわからない質問に動揺が隠せない。 「そうか!待ってるな!」  隆則は壁の方向を向いて準備運動を始めた。大地は隆則のことが少し苦手だ。発言が少なく何を考えてるかわかんないし、たまに睨んでくるのだ。何かした記憶は無いが、嫌われてんのかなぁなんて思ったりもする。まあでも、そういう目つきで、そういう性格でって、それがコイツらしさでもあるからな。毎週土曜に2人きりでバドミントンしてる仲なんだし、もっと仲良くなってもいいはずなのにと思っていた。  いつものならこの時間はじっとしているのだが、早くバドミントンをしたい大地はただ待つのもつまらないので隆則の準備運動を手伝うことにした。仲良くなれるキッカケになるかもしれないし、どうせならいたずらしちゃえ!と考えた大地は前後屈している隆則にゆっくり近づいて行った。ちょうど前屈したタイミングで背後にたどり着いた大地は頭と頭がぶつからないように左に少しずれて、隆則が身体をそらせたタイミングで耳元に声をかけた。 「手伝おうか?」 「おわぁあああ!?」 「おっとぉー!」 驚いた隆則が体制を崩してそのまま後ろに倒れそうになる。 大地は咄嗟に隆則が頭を打たないように腰と首に手をまわす。 隆則も必死に大地の背中を掴んだ。 大地は片膝をつく形で自分より身体の大きい隆則を支えきった。 それはさながらタンゴのような体制になっていた。 「ははっ、なかなかスリリングだったなぁ。」 大地が焦りの感情を抑えてそう笑いかけるが、隆則の顔は硬直したまま動かない。 大地はどこかで同じ光景を見たことがあるような気がしたので、目を見つめ合ったままのその体制でそれがいつで誰だったか記憶を辿ってみたものの、結局思い出せなかった。 「ちょ、ちょっと!いつまでこの体制でいるつもりすか!」 時計の秒針が1/6周したところで、やっと現実世界に戻ってきた隆則は慌てて大地の背中から手を離す。 「おわぁっ!?」 いきなり荷重が増えたことにより大地は体制を崩す。しかし咄嗟に手を離したので腕を痛めることはなかった。 「あでっ!!」 隆則は頭を打ったようだ。大地はその辺に手をついて無事だった。 ある程度経って、隆則が後ろに手をつく形で少し起き上がった。 「悪かったな、大丈夫か?」 大地は妹が転んだ時のように優しく頭を撫でた。 隆則は不意を突かれビクッと反応する。 「......あーえっと、ク、クラクラします。やっぱりもう少し寝転がっときます。」 「...んで、手伝おうか?準備運動。」 大地はニヤニヤしながら尋ねた。さっきのことを思い出したのか、隆則の表情は強ばり、顔も赤くなっていった。 「い・り・ま・せ・ん!!もう二度あんなことしないでください!!......はぁ、はぁ。...顔洗ってくるんであっちで大人しく待ってて!!」 隆則は耳まで赤くして怒る。隆則は仰向けのままなので大地から見れば相当シュールなのだが、それを笑うと余計に怒らせてしまうので黙っておくことにした。 「うんうん、だよな。あっちで待ってるな~。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 昼休憩、無事バドミントンをすることができた大地は、いつもより満足感を感じていた。隆則とも仲良くなれた気がしたので昼飯に誘うことにした。そうそうに靴を履き替える隆則に声をかけた。 「なあ、昼飯一緒に食わね?どうせ午後も会うんだしさ、いいだろ?奢るからさ。」 隆則の手が止まり、しばらく動かなくなった。 「ん?どうし......あっ、朝のことまだ怒ってんのか?」 「......すいません、俺、いつも一緒に昼飯食べてるやついるんで。」 背を向けたまま、そう言って隆則は立ち上がった。 ピロン 隆則の携帯がなった。手に取ってみると秀和からのメッセージだった。 『言い忘れてたけど、今日松田と出かけてるから昼飯は一緒に食えない。わりぃな。』 タイミングが良いのか悪いのかわからない文章に「えーマジか」と声を出してしまう。 「お?じゃあメシ一緒に食えんじゃん。」 横から覗き込んでいた大地に隆則は驚いてすごい表情で大地を見ながら1、2歩後ずさり携帯を自分の背後に隠した。 「なっ!ひ、人の画面勝手に見ないでください!」 「悪りぃ悪りぃ。でも、一緒に食えるようになったのはホントだろ?断る理由無くなったんなら、センパイの奢りを断るってことはできないだろ~!」 「そ、そうっすけど......」 「よーし!早速食堂行くか!競走な!」 既にサンダルに履き替えていた大地は、そう言って駆け足で食堂へと向かって行った。 「あっちょっと!三ツ橋先輩!俺まだオッケーしてないんすけど!」 隆則は慌てて大地を追いかける。 隆則の口角は少しだけ上がっていた。

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