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第16話『起床焦燥喪失』
「んにゃ?」
隆則 は目を覚ます。頭が痛い。昨日飲み過ぎてしまったみたいだ。確か、居酒屋で仲良くなった人と酒飲んでて...その後は...
だめだ、思い出せない。そうだ、そんなことよりヒデちゃんに謝らないと!
隆則は起き上がる。頭の痛さに眉間に皺を寄せ目を瞑り、目頭の辺りを擦った。
「ん?あれ?」
何かを探す様に上半身を手が移動する。しかし、その何かを見つけることはできない。
「なんで服着てないの?はっ!パ、パンツ...は履いてたぁぁ。ってあれ?これ俺の布団じゃない。」
周りを見渡すと、自分の部屋でないことは明らかであった。では、誰の部屋なのか。六畳程の洋室に置かれた物品の数々、おそらく男の部屋だろう。
「おっ、起きたか。」
襖が開く音と同時に声が入ってくる。
ビクッ!
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした隆則は音がした方を反射的に見つめる。そして安心したように再び布団にくるまる。
ああ、なんだ大地 先輩か。知らない人だったらどうしようかと思った。...ん?
「大地先輩っ!?」
「うおっ!?なんだよ急に、びっくりしたぁ。」
理解出来ない状況に隆則は硬直してしまった。大地はまたかとばかりに首を振る、しかしとても穏やかな顔をしていた。
やっと動き出した隆則は恐る恐る質問する。
「あの、その。えっと...」
「ん?どしたどした、漏らしたか?」
「ち・が・い・ま・す!!(え?漏らしてないよね?...はぁよかった。)」
「はははっ!不安になって確認すんなよ~!ははははっ!ヒィ腹痛い!勘弁してくれよも~!「違う」ってあんなに強く出たのにっふふ、わざわざ確認しちゃってさっふふはは、可愛いやつだなっはははは!」
布団をめくって確認した事をバッチリ見られてしまった隆則は耳まで真っ赤になった。はっきりと顔が熱を持っていると分かった。
よりによって大地先輩の前で失態を晒してしまうなんて。むしろ失態しかしてない気がしてきた。今はそんなことはもうどうでもいい。
「いい加減笑うのやめてくださいよ!服です服!!俺の服どこ行っちゃったんですか!」
「えっ昨日のこと覚えてないの?」
「えっ...」
「あんな事しておいて、覚えてないなんてっひどいわっ!最低よっ!」
大地はあからさまな演技をした。
隆則はまた考え込む。
もしかして、取り返しのつかないことをしてしまったのか?つ、つまりは、酔った勢いで...!?え?でもさっきの態度みるととてもそんなふうには...というか、どっちが『上』なんだ?まてまて、それ以前に俺は想いを伝えたのか?もしそれが無かったら、もしかして一回切りの関係に?一回切りだとしても嬉しいけどなんで覚えてないんだよ死んでも思い出せ俺!(3秒)
「時間切れ~。正解は、『オロロがキラキラ』でした~。だからタカちゃんの服は俺が処理して洗濯しました~。しばらくパンイチで反省しろよ~?」
「す、すいませんでしたああああ!」
隆則は勢いよく土下座する。吐いた事はもちろん、いかがわしい事考えた事についても罪悪感が限界突破していた。しかし、残念にも感じた。酔った勢いぐらいじゃないと何にもできないと思うから。
「お、おう。」
大地は少し引き気味に返答した。
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「なあタカちゃん、正直に言って欲しいんだけど、俺のこと苦手?」
ちょっと遅めの朝ご飯を食べている中、大地は純粋な声で質問する。
「えっ。」
隆則は手に持っていた箸を落としそうになり、慌てて掴んだ。
「俺さ、タカちゃんが俺にだけよそよそしい気がしててさ。まっ、こんなこと直接聞くようなことじゃないんだけど!でも他の誰かに聞くのも違う気がしてさ。ごめんないきなり。」
「そんなことありませんっ!」
隆則は勢いよく立ち上がった。そしてしっかりと大地の目を見た。
「確かに普段目を合わせるの避けてるし、会話もあんまりしてないし...あれ俺最低だな。だけど!それは苦手だからとかじゃなくて!なんというか、先輩を前にするとどうしていいのかわからなくなっちゃうというか、緊張しちゃう...そう!緊張しちゃうんです!ただそれだけのことです!だから気にしないでください!」
大地は驚いた様子で、目をパチパチさせ呆けた顔をした。
「待て待て待て待て、ちょっと待て。」
右手を前に突き出し左手を顔に当てて考えているようだった。
「うーん、つまり?俺の前だと緊張しちゃう?」
「はい!そうです!」
「なぁるほど...だけど他の人の前だと緊張しない。」
「はい!そうです!」
「だから他の人と対応が違う。」
「はい!そうです!」
「うーん.........俺のこと好き?」
「はい!あっ!いやそのあの...」
隆則は手をバタバタさせて微力な抵抗?をした。抵抗虚しく次の矢が飛んでくる。
「俺と......付き合いたい?」
「んぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
隆則は叫ぶ。もちろん「はい」と言いたいし「いいえ」とは言いたくない。しかしながら、「はい」と言ってしまえばそれには結果が伴ってしまう訳で。というか、叫んでしまった時点でそうだと言ってしまっているようなものなのだから、ここは腹を括るしかないのだろう。
「はぁ、はぁ。...はい!付き合いです!」
隆則はギュッと目を瞑る。手を握り締め次に飛んでくるであろう、考えられる最悪で最強な一手に備える。
ビクッ
予想外なことに、大地は何も言わずに隆則の頭を撫でた。しばらく撫でた後、名残惜しそうに、耳、頬、顎に触れ、そして離れていく。隆則はたまらず目を開ける。目に入った大地は悲しそうな顔をしていた。
「じゃあ...実家暮らしのはずの俺がなんでアパートにいるのかわかったらいいよ。」
隆則はそう言われて周りをキョロキョロと見渡す。
確かにそうだ。実家暮らしで、小さい妹がいて、迎えがあるからとわざわざ緩いバトミントンサークルを一から作った人が、何故アパートにいるんだ?
全く検討もつかなかった。
「難しいよな。意地悪問題でごめんな?だけど正解するまでは友達以上恋人未満ってことでよろしくな、未来の彼氏君?」
チュッ
大地はそう言って隆則の右頬にキスをする。
「おわぁっ!!」
隆則は目を見開いて驚き、軽く飛び上がった。このまま飛んで行けるような気分だった。しかし、重力に引っ張られるとともに体制が崩れていくのも感じた。
「うおっ!?」
今回は綺麗に椅子に収まるように座った。
一瞬焦った大地も、拍子抜けとばかりに大きなため息をついた。そして隆則の頭を力強く撫でた。
隆則は嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。
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