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第15話『仕組んだ最初』
「少し落ち着きましたか?一旦座りましょう。」
青也 は優しく声をかける。秀和 は静かに頷き、抱きついていた腕を離す。そして青也に連れられるまま近くにあったベンチに腰掛けた。
「僕、秀和先輩に謝らなくちゃいけないことがあるんです。実は寮での秀和先輩と田神 先輩の会話を聞いて...」
「...そうか。別に謝ることじゃないよ。騒いでたの俺だし。」
「多分先輩言ってることと違います。もっと前です。」
「...え?」
「僕と先輩が出会った日、僕があの本屋に居たのは偶然じゃなくて...先輩達の会話で秀和先輩があの日あの本屋に行くことを知っていたからなんです。」
「うん?つまりはどういうこと?」
「つまり...先輩にBLを布教しようと漫画を吟味しに行ってました!ごめんなさい!」
青也は頭を下げた。秀和は困惑した。せっかく気持ちが落ち着いてきたのにまたよくわからない状況になってきたしまった。
「じゃあ...あの時ぶつかったのも...わざと?」
「いや、それは違います。」
「違うんかい!」
「はは、ナイスツッコミ!いや実は、先輩がどんな感じの本好きなのか調査して、それに合わせてBL漫画を選んで先輩の部屋の前に置くって作戦だったんですけど...つい漫画を選ぶのが楽しくてすっかり忘れちゃってたんです!そしたら先輩とぶつかっちゃって。めちゃくちゃ焦りましたほんとに。でも結果的に先輩の方からBLのこと教えてくれって言われて嬉しかったです。...BLを利用されるのは不服でしたけど。」
「ごめん。」
「大丈夫ですよ。ちょっと嫌なこと思い出しただけです。それに、嫌な思い出をいい思い出にできたから。」
「嫌な思い出?」
青也は少し俯く。
「...はい。簡単に説明すると、BLを通して仲良くなった子がいたんです。だけど、それは僕に近づくための口実で。強引な言い寄られ方をしたから少しトラウマなんです。ほら、ショッピングモールで一緒にご飯食べた時、先輩の手を払っちゃったじゃないですか、あんな感じで、反射的に拒絶しちゃう時があるんです。」
「そうだったのか...話してくれてありがとう。俺も、何があったか説明するよ。」
それを聞いて青也は慌てて秀和の顔を見て焦った顔で語りかける。
「無理に言う必要はないですよ!そんなつもりで話したわけじゃないですから!」
秀和は、優しく笑って応える。
「違うよ、俺が聞いてほしいだけ。...俺は、なんだろうな、なんて説明すればいいか......一番信頼してた人に裏切られた、というか、なんていうか。騙すとかそういう気は無かったんだと思うんだけど。うーん、俺だけの味方でいて欲しかったというか。出会い方がどんな風だったとしても、どんな思惑があったとしても、その後の友情の育みってのは2人だけの物だし、無くならないと思うんだ。だからこそ、嘘ついてもいいから側にいて欲しいって思ったんだ。だけど、あいつは「友達失格だ」って。...まじでふざけてるよな、「出会いは仕組まれてたとしても、俺たちの友情は本物だ」ぐらい言ってみせろよ親友だろ......『なんでも話せる仲』って言ったんだぜ、何にも話してなかったじゃないか。お互い。ははは。」
秀和は今にも泣きそうになりながら、でもなるだけ明るく振る舞った。これ以上情け無い姿を見せたくなかった。歳上としての意地だろうか、それとも相手が青也だろうか。
「友情の育みは2人だけのもの、か。(...翔とも、友情、あったのかな。)」
「え?」
「いえ。確かに話し合った方がいいと僕も思います。察するに田神先輩と喧嘩しちゃったんですよね。田神先輩は、秀和先輩が言うように騙してるつもりはなかったんだと思います。だからこそ考え直した時に後悔して「友達失格」って言ったんだと思います。...あの、個人的の願望も含まれるんですけど、それを抜きにしても2人はお似合いだと思います!だから絶対に仲直りしてください!僕の為にも!胸に手を当てて考えてみてください、気付いてないだけで田神先輩のこと好き、だったりしませんか!?」
青也は興奮したように秀和に詰め寄り、秀和の手を掴み秀和の胸に当てた。目はキラキラと言うより、街の明かりを反射さてギラギラとしていた。秀和は、その姿が一瞬隆則に似てるなと思った。そして、青也相手に引き気味になりつつ考えた。少し考えた後、青也に笑いかける。
「うーん、やっぱり隆則のことは大事だけど、友達としてかなぁ。恋人にするなら青也みたいな子がいいな。」
秀和は首を傾げる。青也が物凄く驚いた顔をしたのだ。しかし何故なのかわからなかった。何かおかしいことを言っただろうか。
「あ。」
気付く。
頬が熱くなっていくのを感じる。
早く否定しなくては。
そういう意味じゃ無いと。
しかし口がそれを拒む。
これは一体絶対どういうことなのか。
まさか。
本当に?
「そっ、そんなに評価してくれてるとは思いませんでした!嬉しいですありがとうございますっあ、そろそろ寮に戻りましょう!」
「え?お、ああ、そう、だね。」
青也が慌てた様子で立ち上がる。そして秀和の手を掴み引っ張る形で進んでいく。
帰り道、2人は一言も喋らなかったが、手はしばらく繋いだままだった。
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「うまく撮れたか?」
「はい、だけど罪悪感が半端ないです。なんでこれは本職に頼まないんですか?」
「探偵が必ずしも味方とは限らないからだ。...これでピースは揃った。」
「何するつもりなんですか?」
「当て馬だよ。」
「...というと?」
「...はぁ。」
優大 は呆れた様にため息をついた。
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ガチャ
「あれ?いない。」
秀和は隆則 の部屋に来ていた。不用心にも鍵はかかっていなかった。謝ろうと思っていたがいないなら仕方がない。
「どこ行っちゃったんだ、あいつ。」
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「ええっ、好きな子に振り向いてもらうためにそんなことまでやったの?さすがにやりすぎじゃない?」
隆則は居酒屋で飲みまくっていた。やけ酒なんて初めてであったが、現実逃避にはなかなか効果的だった。
「いや!好きだからこそどんな手を使ってでも手に入れたいって思うんだよ。...まあ、失敗続きなんだけどな。」
途中で仲良くなった同年代の男と楽しく話していた。彼は失恋話を語ってくれていた。
「出会いはいいとして、やっぱその後焦りすぎたんじゃないの?誰だって怖いだろ、強引すぎるとさ。」
「でも、それ以外の方法がわかんねぇんだよ。それに、諦め切れなくて。本当に運命だと思ってるんだよ。」
「まあ飲め飲め!今は嫌な現実は忘れようぜ、そのために飲みに来たんだろ?」
隆則は男の肩を叩きジョッキを渡す。
「ああ、ありがとう。...話は変わるんだけどさ、君、身長は全然違うけど、どことなく似てる気がするんだよね、雰囲気。俺の運命の人に。」
その男、天川 翔 は笑って言った。
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