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番外編:四つ辻の怪物

作家である椎野健吾は締切間近だった小説を書き終わり、郵便入れに入っていた手紙を確認していく。目の前には編集者の真木が出来立ての小説を無表情で読んでいく。 「椎野先生、コーヒー入れました。どうぞ」 「ありがとう高木くん。ミルクをたっぷり入れてくれ」 高木は真木の後輩で、仕事を教えてもらっているらしい。幼馴染の真木のことを知っているから教育係をすることになったと聞いた時は驚いたが、小さな出版社も人手不足なのだろう。 椎野は友人が少なく手紙を送ってくれる人など仕事関係の人でも少ない。そのため入っているのは椎野に聞いてほしい話があるファンが多い。 「高木くん、この話は興味深いね」 「どの話ですか?」 「これを参考にして小説を書いてあげよう」 「本当ですか?凄く読みたいです」 目をキラキラしている高木を見るとテレビでワンコ特集に出ていたチワワを思いだす。 「では待っていたまえ」 「四つ辻の怪物」 これは私が学生の頃の話だ。 私の家は両親が離婚したばかりで、父親と一緒に父の故郷であるM市に引っ越してきた。引っ込み思案の私は学校に馴染めず帰り道も一人だった。 あの日も一人で夕暮れ時に帰っていた。家に帰るまでに四つ辻があり、私はあの出来事を体験してからは遠回りをして帰宅した。 四つ辻には霊が現れるという噂があり、学校でも噂が広がっていた。登校した時は何も起こらなかったし、帰宅時も普通に帰れなかったので眉唾だと思った。しかし、会話に入ることのできるきっかけがほしいと噂を盗み聞きしていた。 「この四つ辻で唱えたらいいんだよな」 四つ辻には異界への入り口があり、とある呪文を唱えたら開くという。 「お通し下さい、お通し下さい。この身体をお通し下さい廻り様」 廻り様とは四つ辻の主らしい。私は廻り様を見てすぐダッシュして帰り、翌日学校で話そうと思った。目を瞑り軽い気持ちで唱えた。 「ちぇっ、やっぱり嘘か」 目を開けるが景色は変わらない。もう帰ろうと肩を落として四つ辻を去った。 しかし、異変はすぐ分かった。いつもなら家に着く筈が家すら見えず、同じ道を歩いている気がする。もしかして異界に入っているのかもしれない。周りを見回しても人一人おらず辺りは暗くなってきている。 「誰か、誰かいませんか?」 心細くなり声を上げるが返事は勿論ない。そして後ろを振り返った時、帽子を深くかぶった男が立っていて驚いた。 「あの、俺」 声をかけると目深にかぶっており顔が見えないスーツの男は私の身体を抑えつけ服を物凄い力で破いた。 「な、なに」 男は何も言わず私の秘められた扉をこじ開けようとする。 「痛い、痛い、そんなとこ指入らない」 男のゴツゴツした指が私の敏感なところを掠め、思わず艶やかな声を出してしまう。すると男はそこばかり擦ってきて、羞恥を感じながら口を抑えては漏れ出る吐息に触れる。 「あっ、あっ、待って、そんなに擦らないで」 生死の声も聞かず男は指の代わりに自分の一物を挿入し私の腰に打ち付けた。まだ誰とも性行をしていない私にとっては未知の感覚で、迫り来る快感の荒波に飲まれるしかなかった。 「や、っあ、は、はんっ、んああ」 男の動きが速くなり、そしてナカに温かいものが注がれていく。私の爪先はピンと張りただただ受け入れるしかなかった。 男は満足したのかありがとうと言って消えてしまった。そして私はというと感覚はあるが酷い痛みはなく、家にも帰ることができた。 風呂場に入って自分の下の穴に指を恐る恐る入れてみるが何も出てこない。 夢だったのだと思った。そういうことにすると少し胸の鼓動が緩やかになった。 そして、翌日から同じ時間帯にいつのまにか四つ辻に立っている現象が起きる。 「なんで、呪文なんて唱えてないのに」 後ろを見ると今度はふっくらした体型の男だった。何故か顔を思い出そうとしても今も思い出せない。突き飛ばされ両足を引き寄せられ、挿入された。男の股倉が私のと合わさっているのが分かる。 「そんなに、っふぁ、吸われても、んっ」 昨日より拙いが平たい胸を舐められ、吸われる。また、男はそそり立つ棒を遠慮なく私のナカに打ちつけてきた。イク時はキツい体勢のまま出され、熱さを感じる。足りないのかすぐさま動き出し再び出されていく。男の先が何度も腸を抉ってくる感覚に快感を感じている私は再び出されると少し胸の中で期待してしまっていた。 「そんなに、激しい、ぁあ、んんっ」 「あついの、またくる。もうはいらないっ」 くる、再び出される。そう感じた瞬間熱い飛沫となってナカではじけた。 出されながら男は昨日の男と同様ありがとうと言って消えたのだった。 私もまた元いた場所に何事もなく立っており、時計を見ると一分しか経っていなかった。 次の日も、また次の日も違う男が私をあの四つ辻に呼び出し犯していく。どうしてか分からないが最初の時より嫌な気がせず、むしろ早く四つ辻に飛ばされないかと身体が疼く。 私が父の転勤で再び故郷を離れたことで、今ではもう四つ辻に関わることが無くなり平凡な日常を過ごしている。 あの男たちが何者か。何故私を犯したのか今も分からないでいる。 椎野の原稿を読む高木は唾を飲み込む。 「椎野のは容赦ないプレイが多いから高木には合わない」 真木が高木から取り上げ片付け始める。 「それを無表情で読むお前はどうなんだよ。ムッツリなんだせコイツ」 真木は聞く耳を持つなと言うが、怒っている様子はない。 「その手紙は橘に送るのか?」 「橘さんってどなたですか?」 「橘は俺と真木の高校生の時からの友人。橘一族はこういうホンモノを除霊できるから、手紙見て、あ〜これは頼んだ方がいいと思ったら任せるわけ」 椎野は高木が読んでいる間に封筒を用意しており、手紙を入れ真木に渡す。 「椎野先生は霊感がおありなんですか?」 「ん〜まあね。強くはないよ。さて、これ以上話すと真木が怒るからタクシー呼んできた方がいいんじゃない?」 高木ははいと答え外で電話をかけ始める。 「顔色悪いぞ」 「そう?締切前だからじゃない?」 「手紙のせいだな」 「まあね。おっと」 少しふらつく椎野を真木は抱きしめる。 「真木も高木くんも明るい気を放つから助かるよ。浄化されそう」 「手紙の妖気に当てられるなら」 「それ以上言われても手紙を受け取るよ。エピソードも使わせてもらえるし、それに」 椎野は真木に上目遣いで言う。 「真木は俺が生きてるか見張る義務があるんだろ?それなら大丈夫だ。」 「ああ、そうだな」 椎野は真木が親の命令で自分を監視していること、恋人も作らずなりたい職業にもつかず傍にいることが許せなかった。 椎野の特異体質のせいで真木を縛りつけているのは分かる。だが、逃げようと思えばできるのにと考えてしまう。 「今夜いつもの時間にどう?」 「分かった」 真木はいつも帰り際に椎野にキスをした。軽く触れるだけのあっけなさ。物足りないが高木に見られては面倒だろう。 「ムッツリも夜は激しいんだけどね」 一人呟き、荒れた書斎を片付けることにした。

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