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「答える必要」
「……ちょっと、恥ずかしいんだけど」
「――――……だって、すっげえ会いたかったし」
快斗は、すごく嬉しそうに、そう言う。
快斗を意識してしまうのは。 快斗の、「好き」という言葉。
それから。
……それから――――……。
自分が、快斗を、好きなのかもしれないと、
本当にほんの少しだけ、そう想っているから。
「――――……快斗」
「ん?」
前言ったの――――……今もそう想ってる?
オレ、今も 答える必要、ある? こうして考えてる意味、ある?
そう聞こうとした瞬間。
大きな音ともに、花火が打ち上がった。
はた、と我に返る。
――――……こんな所で。
こんな周りに人のいっぱいいる所でする話じゃなかった……。
何考えてんだ、オレ。
内心慌ててるオレの腕をちょっと掴んで、快斗はくい、と引いた。
「始まった、愁。 どうする? 場所、動く?」
「ここから見えるし。立ち止まっても平気そうだからここで良いかな」
「んじゃここで 見よ」
2人でその場で落ち着いて。
空を、見上げる。
大きな花火が上がるたびに、周囲から歓声が上がる。
花火が始まった時、立ち位置的には、真正面というより少し左上の夜空で。花火を見上げると、オレの左側に立ってる快斗が、視界に入る。
快斗の真横に並べばいいのだけれど、何となく快斗を見たくて、少し引いた所で、快斗越しに花火を見る位置で落ち着いた。
当然快斗も花火を見てるから、顔は、オレの方を向いてはいない。それを良い事に、後ろ姿を見つめてしまう。
――――……3か月だけど……背、伸びたかな? 差が開いたような気がする。
なんか、ちょっと、後ろ姿の雰囲気違うような……。
あ、髪が、前よりちょっと短い、かな…?
ちょっと、大人っぽくなった、気がする。
でもまだ3か月か。……気のせい、かな?
「――――……」
――――……さっき聞けなかった、言葉。
今からでも。
答える必要が、あるのか。
「――――…」
花火は目に入っていたけれど。
ちゃんと綺麗だとは思っていたけれど。
気になるのは、快斗の事ばかり。
「――――……」
どうしても花火よりも、快斗を見てしまっていたオレを。
快斗が、いきなり、くるっと振り返った。
「!」
ちょっとびっくりしたまま。
まっすぐ見つめ合ってしまう。
あきらかに、快斗の後頭部を見つめていなければあり得ない、視線の合い方をしてしまって。今更逸らす事もできず。
何にも言わない快斗に、オレも何も言えずに、ただ見つめ返す。
「――――……」
快斗は何も言わずに。
くるっと、花火の方向に向き直る。
ドキドキ、するのは。
――――……その理由は、至極簡単で。
考えれば……。
――――……いや、違うな。
考えなくても、すぐ、 分かる。
男に好きだと言われて。
すぐ嫌だと言えない時点で。
相当オレは、
快斗の、事が――――……。
それきり。快斗は、花火が終わるまで振り返る事は無かった。
「キレイだな」とか、そういう言葉だけがたまにかかるので、オレも返事をして。 会話は、そんな感じのものだけだった。
オレは、快斗の後ろ姿と花火を、両方ずっと見てるような感じで。
何だかドキドキしながら――――……その時間を、過ごした。
最後の花火。一際大きな音と共に、何発も続けて打ち上げられて。
周囲から拍手と歓声があがる。
打ち上がる音が消えると。
すごく明るかった、空が。 花火の煙を残して、暗くなっていく。
この瞬間。
何となくいつも、切ない気持ちが沸き起こる。
何だか今日は、余計だった。
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