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「会えて嬉しい」
快斗は、高2の3月に引っ越していった。
今は夏休みが始まった所。だからつまり、4ヶ月も経っている。
……まだオレは、何も答えてない。
――――……快斗が、答えたくなるまで答えなくていいと、言ったから。
何年でも待つから、と、言ったから。
絶対無理だと思ったら、今すぐ言って欲しいとも言われたけど、それも言えず。
かと言って、好きだとも――――……考えた事もなかったから、どうしても言えず。
そのまま、何も、答えないまま。
離れてからも、毎日ずっとスマホで連絡を取り合っていた。
快斗は、あの後は、何も言わない。
好きだ、とか、返事は? とか、そんなような事は、何も。
オレからも、あの件には、触れてない。
快斗の、あの言葉の記憶が、無かったら、
完全に今まで通り、普通の友達のように電話で話していた。
だけど、オレの中には あの言葉がずっと残っていて。
ずっと好きだから何年でも待ってると言った時の快斗が、
ずっと心の中に、在って。
何だか、ずっと落ち着かないまま、時が流れている。
――――……夏休みになって、残した家に泊まりに来る事になった快斗と、駅前で待ち合わせをした。
駅まで後少し。
もうすぐ 快斗に。
あれ以来初めて、快斗に、逢う。
めちゃくちゃ、ドキドキする。
◇ ◇ ◇ ◇
オレを待ってる間に、快斗はどうやら、今日の花火大会のポスターを見つけていたらしく。
オレの顔を見て、一番に。
「花火いこ、愁」と。嬉しそうな笑顔で言った。
ビデオ通話でいくら普通に話し続けていても、会ったら違うんじゃないかな。
そんな風に思っていたオレは、快斗があんまりに変わってなくて、普通だったので ちょっと拍子抜けしながらも、ホッとした。
予定は決めてなかったから、花火の提案にすぐ頷いた。
快斗の荷物をとりあえず駅のロッカーに預けると、電車に乗って、花火大会の会場へと向かう事になった。
到着して電車を降りると、ちょっとうんざりした。
「んー、すごい人だな」
「……だね」
快斗の言葉に、苦笑いで頷く。
打上開始まで、まだ2時間はあるのに、駅は人でいっぱいで。
「――――……これ、時間近づいたら、どれ位の人になるんだろー……」
「……ほんとだな」
予想して、更にうんざりしていると。 快斗が笑った。
「愁、人混み嫌いだよな」
「好きな奴、いんの?」
「居ないか」
快斗は、ふ、と笑って、周りを見回した。
「な、愁、いい場所探して座る? それとも、ぶらぶらする?」
「どうせ空にあがるし、見えれば良いかな」
「なら、歩こ。屋台も出てるし」
楽しげな快斗に、何だか笑ってしまう。
「ん?」
「いや……快斗、楽しそうだな~、と思って」
「こういう雰囲気、すごい好き」
「そうだった……」
小さい頃から、お祭り大好きだったっけ。毎年近所のお祭りの全部制覇に付き合わされたのを思い出して、また笑ってしまった。
「あのさ」
オレが昔を懐かしんでいると、快斗は、ふ、と振り返った。
「愁と会えたから、楽しいんだけど。 分かってる?」
「――――……」
快斗の言葉、素直に嬉しい。どき、と、心臓が跳ねる。
……オレも。会えて、嬉しい。
「うん。オレも嬉しいよ、快斗に会えて」
「そっか」
快斗は嬉しそうに、鮮やかに笑う。
笑顔、変わってない。 良かった、元気そうで。
嬉しくなって、快斗を見上げる。
屋台で色んなものを買ってウロウロしている内に、気付くと一段と人が増えていて。少し目を離すと、前を歩いている快斗を見失いそうになる。
「愁、こっち」
たまに振り返って、呼んでくれるから何とかはぐれずに済んでいるが。
あまりに人が多くて。 そして皆が、自分の行きたい方へ自由に向かう為、かなりごった返している。
何となくの列は出来ているけれど、横切っていく人も多いので、一歩進むと人にぶつかるような気がする。
「愁」
「…ん?」
振り返った快斗が少し背をかがめて、オレを覗き込んだ。
「気分でも悪い?」
「え? 何で?」
「あんまり話さないから」
「ああ……なんか、話しても聞こえないような気がして」
「――――……」
一瞬黙った快斗は。
オレの肩に手を掛けて、ぐ、と引き寄せた。
「隣に居ればいいじゃん。 何で後ろに居るんだよ」
急に近くなった快斗に、どき、として。
とりあえずその手を離させようと思って。
「ちょ……離して」
言うと。 快斗は、ふ、と笑んで。
その後今度は、オレの背中に手を置いた。
「こんなとこではぐれたら嫌だから、 触らせといて」
背中に触れてる位、全然大した事ないはずなのに、何となく、意識してしまうのは。
絶対に、快斗が前に言った、「好き」という言葉のせい。
「あー、なんか…今更思ったんだけど…」
「…ん?」
ちょっと高い所にある、快斗の目を見上げると。
ふ、とそれが緩んで。 嬉しそうに笑みを作る唇が。
「――――…愁が隣に居て、触れるの、すっごい嬉しい。」
そう、言った。
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