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「今の場所」

「愁、ホラー映画の方は見る?」 「快斗、見たい?」 「……愁が見たいなら」 「……オレが見たくなかったら?」 「……何か堂々めぐりだな」  快斗がクスクス笑う。 「愁がやりたい事ないなら、オレは愁と話したいかな」 「じゃ、話そう?」  快斗にくっついたまま。見上げる。 「快斗、何、話したいの?」 「……んー……愁は? オレと話したい事ある?」 「……話したいって言ったの、快斗じゃん」  クスクス笑って言うと、快斗も、そうだけど、と笑う。 「……じゃあさ、快斗が今一番仲の良い友達、どんな奴?」 「んー……|祐樹《ひろき》っていう名前」 「うん」 「背はオレと同じ位。横にでかいかな」 「うん」 「声でかい」 「うん」 「……連絡のメッセージは、大体いつも一言とか。短い」 「うん」 「……彼女欲しいっていっつも言ってる」 「うん」 「柔道部だった。引退したけど」 「うん」  ずっとうんうん頷いて聞いていたら、快斗が遂に笑い出した。 「愁、うんばっかり。ああ、写真見る?」 「うん」  笑いながら、快斗がスマホを操作して、男女6人で教室でご飯を食べてるらしい写真を見せてくれる。 「右端のデカい奴が祐樹だよ」 「うん……」    その隣で、違う制服の、快斗も笑ってる。 「――――……快斗の今の制服、初めて見たかも」 「あ、そうだな。送ってなかったっけ」 「……カッコいいね」 「――――……そう?」 「うん」  周りにいる、笑ってる友達たちも、当たり前だけど全然知らないし。  ……なんか、快斗が、知らない奴みたいで。   ――――……なんとなく、ただ、じっと、写真を見てしまう。 「写真、めくってってみて。 もう一人仲良い奴がさ」 「ん」 「……あ、そいつ」  何枚か、色んな子と快斗が写ってる写真があって、ある写真で止められた。 「|康太《こうた》っていうんだけど。愁と同じくらいかなー、背は」 「うん」 「……普段そんな写真撮らないんだけど、たまたまこの日は、体育祭の準備の日で――――……オレのスマホで写真撮ってたら、友達がオレも入れて撮ってくれてさ。 貴重な写真……たぶんこの日以外の写真ってオレ撮ってないから」 「そうなんだ。 ――――……快斗、楽しそう」 「――――……」  良かった。やっぱり、快斗はどこ行っても人気あるだろうし。 仲良くやってそうで。 楽しそうな快斗は、好き。    ……なのに。なんで、少し落ち込むのかな。オレ。  快斗が楽しい方が良いし。  笑っててくれて、嬉しいし。  友達もできたんだなーって、良かった、と思うのに。  ――――……今は、こんなに、くっついて、居られるけど……  ……来週には、快斗はまた、居なくなって。  この場所に、戻っていくんだなあと。  思ってしまう。 「――――……愁?」  ずっと、ずっと、オレが、一番、快斗の側に居たのに。  今は。もう、快斗の一番そばに居るのは、オレじゃないんだよな。   「ありがと、写真」  スマホを快斗の手に返す。 「愁?」  快斗は、受け取ったスマホをすぐに床に置いて。オレをのぞき込んできた。

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