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「くっつく」
「ただいま」
「おかえり、愁」
「返事終わった?」
「ん、ちょうどいま終わった」
「はいお茶ね」
「ん。ありがと」
冷たいペットボトルを、受け取る快斗の笑顔を見ながら。
「やっぱ快斗は人気者だよねー」
「久しぶりだから余計。……でも、今回は皆には会わなくていいやと思ってきたから。ほんとによかったんだけどな……」
「でも会っちゃったし、皆も会いたいだろうからしょうがないよね」
「そーだけど……」
ぶつぶつ言ってる快斗に、苦笑いしつつ。
あ、じゃあとりあえず今日は暇なんだ、と思って。
「……今日午前中は勉強するんだよね?」
「ん、そうするんだろ?」
「うん。午後は? 快斗、何したい?」
「愁は何かしたいこと、あんの?」
「快斗が何もしたいことなかったら……」
「うん。別にないよ」
「じゃあ、オレの部屋行って、一緒に映画みよ?」
「――――……いーよ」
くす、と笑って、快斗が頷く。
快斗がこっちにいた頃は、よく2人で色んな映画を見てたのを、快斗も多分思い出してくれてるのだと思う。
「あとで、借りにいこ。愁、カード持ってる? オレ置いてきちゃったから」
「うん。持ってる」
「じゃあ、昼までは勉強頑張ろう」
「うん」
途端にやる気になって、2人で、テーブルに勉強道具を広げた。
昼まではちゃんと集中して勉強して、うちで昼ご飯を食べて。
それからDVDを借りてきた。
オレの部屋、ベットの上に座って、壁に寄りかかる。
いつも、この位置で、快斗と映画、見てた。
借りて来たのは、アクション映画とホラー映画の2本。
先に、アクション映画を見ることにした。
「――――……」
快斗と、並んで、映画。
――――… そういえば。
快斗が居なくなってから、DVDも借りに行かなかった。
2人で見てたのが楽しかったから、1人で見る気がしなくて。
隣の快斗を、ちら、と見つめる。
「――――……」
ああ、なんか――――……すっごく、落ち着く。
なんて思っていたら。
なんだか、すごーく、ふわふわしてきて……。
「な――――……愁?」
快斗に呼びかけられて、ん……?と振り返る。
「……愁、寝てたね」
クスクス笑う声が、聞こえる。
「――――……あ。寝てた、かも……」
「うん。かも、じゃないね」
快斗の肩にすっかり寄っかかってたオレ。
「――――……巻き戻そうか?」
「……快斗は見てた?」
「……んー。うとうとしてる愁を見てたから、ちゃんと見てない」
「ん? オレを見てたの?」
「寝顔可愛いからさー。 最初は壁によりかかってたけど、すぐこっちに倒れてきてさ。ずっと愁見てた」
「…………っ…」
オレを可愛いっていう奴、絶対快斗しか居ないと思うんだけど。
恥ずかしすぎる……。
「いまいちだったよな、これ。2までは面白かったのにな。眠っちゃうのも分かる気がする」
快斗はクスクス笑いながら、そう言う。
「愁が見たいなら最後まで見るけど、どーする?」
「もういいかな……」
なんで快斗って――――…… こんなに、オレに優しいんだろう。
オレが見たいって言ったのに。寝ちゃったのに。
ていうか。今だけじゃなくて。…もう、ずっと、快斗は優しかったけど。
「――――……快斗、あのさ……」
「うん?」
「――――……くっついても、いい?」
「いいけど。……どういう意味?」
「意味わかんないのに、いいって言っちゃうの?」
「――――……どうくっつきたいのか分かんないだけで、愁とくっつくってことが嫌な訳ないだろ」
「――――……」
今、もたれかかって寝てたのと同じ感じで、背中で少し快斗に寄りかかって。ぴた、とくっついてみた。
――――……思えば、昔から、よく、よりかかってたなあ。
背中合わせだったり。 隣でだったり。
寒い時とかも、よく、くっついてた。
あの時は、何も、考えてなかったけど。
「くっつくって、これ?」
クスクス笑いながら、快斗は少し下にあるオレの頭に、頬で触れた。
「――――……うん。 これ」
「もっと、抱き付いてくれるかと思った。これは、前からやってるやつじゃん。これなら聞かなくていーのに」
快斗は笑いながら言うけど。
もっと抱き付くとか。
それは恥ずかしいから無理。
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