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「兄貴」
「愁はオレの気持が荒れてるって事はすぐ気づいたよ。オレが、愁を好きなのか悩んでる時も、どうした?って心配してくるし――――……それが何でかっていうのは一切気づかないのに、 オレが出さないようにしてるイライラも、すぐバレて、すぐ聞かれてさ……」
「――――……そうだったっけ……?」
「愁はさ、なんか機嫌悪い?とか、疲れてる?とか、軽く聞いてるから、聞いたら忘れちゃったんだろうな」
クスクス笑う、快斗。
「――――……誰も気づかないのにさ。 愁だけはいっつも、気づくの。オレがおかしいとき」
そうだっけ……。
……オレ、そんな鋭い奴じゃない気がするんだけど……
「オレって、あんまり考えてる事、周りにバレないんだよね。良い意味でも悪い意味でも。分かるだろ?」
「うん。分かる」
「……でも愁にはよくバレんの」
クスクス笑って、快斗はオレを見つめる。
……そんな鋭くもないオレが、本当にそういうのによく気づくとしたら。
快斗の事が大好きで大事だったから、としか。思えない。
「そーいうのバレんのも、ほんとは嫌なのにさ。 愁にバレるのは嬉しくて。 あー、今回も気づいたなー、とか。 ……オレは、愁が好きなんだなーて、いろんなとこで確認しながら生きてきたから……」
「――――……快斗」
なんか。
――――……こんな風に聞いてると。
「ん?」と笑う快斗に、腕を伸ばして。
むぎゅ、とその首に抱き付いた。
「――――……愁?」
「……なんか…………もっと……早く言ってくれれば、よかったのに……」
「――――……」
「……居なくなる時に言ってくとか、じゃなくて……そしたらオレ、もっと――――……今よりもっと、ちゃんと、考えられたのに」
そう言ったら、快斗は、しばらく黙ったまま、オレの背中に、手を置いてたけど。 ゆっくり、ぎゅ、と抱き締めてくれて。
「……あんなに毎日密着して過ごしてて……ダメになった時の事は考えられなかったから。 無理だったなー……ごめんな、言うだけ言って、置いてって」
「――――……ほんとだよ……」
そう言うと、快斗が、クスクス笑って、抱き締めたままでオレの後頭部を、ぽふぽふと撫でた。
その時。突然。
「おい、愁ー? 快斗帰ってきてんだってー?」
大きな声がして、どかどか階段を上ってくる音。
ばっと離れて、慌てて立ち上がる。
変にドキドキしながら、ドアを開けると、兄の|宗司《そうじ》。
「兄貴……」
「おう愁。 快斗居んの?」
「うん、居る」
部屋に入って、快斗の姿を認めると、宗司は「よお」と 笑った。
「元気そうだな?」
「|宗兄《そうにい》も元気そう」
「お前またでかくなった?」
「うん。なったかも」
「昨日飲み会で、今朝はバイトだったし。今お前居るって聞いた」
オレは、自分の机の椅子に腰かけて、快斗と、快斗の近くに座った宗司の姿を眺める。
快斗は、兄貴にとって、「弟の親友」でもあるのだろうけど。
よく知ってる、「年下の幼馴染」みたいな存在でもあるのだと思う。
二人とも久しぶりに会えて、すごく楽しそうに見える。
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