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第73話
今まで姿を見た人がいないと言われていたのにどうしていきなり現れたんだ?
玲音の友達だったのだろうか、親しそうな雰囲気に感じた。
でも玲音はもう別の話題に変わっていて、聞けなかった。
俺と飛鳥くんが元に戻ったから契約したのか聞いているが、飛鳥くんはただ睨んでいるだけだった。
玲音に指を絡ませて握りながら廊下を歩き出す。
すると突然玲音は足を止めて、俺の手を持ち上げた。
「玲音?どうしたんだ?いきなり」
「……瑞樹こそ、どうしたの?これ」
玲音は驚いた顔をしていて、俺も自分の手を見つめる。
傷もない普通の手で一瞬分からなかったが、すぐにあるはずのものがない事に気付いた。
昨日までその薬指に光っていた指輪がなくなっている。
可笑しい、外した覚えがないのに何処に行ったのだろうか。
それに指輪って契約そのものらしいから、そう簡単に外れるものではないのではないのか?
不安に思い玲音を見ると、難しい顔をして考えていた。
「…瑞樹、何処かで外した?」
「いや、外した覚えはないんだけど…外せるものなのか?」
「かなり強い魔力を持ってる奴なら…いや、でも…」
「玲音?」
そんなに大変な事だったのか、俺もよく見ておけば良かったな。
飛鳥くんと英次は状況がよく分かってなくて、説明した。
俺の契約の印である指輪が気付いたらなかったと言うと、飛鳥くん達も見ていないようだった。
何処でなくしたのか分かればいいが、何処だっただろうか…
でも指輪がなくなってもあまり変化はないように感じた。
契約は指輪がないと出来ないのだろうか、また現れるものなのか?
「玲音、指輪がなくなるとどうなるんだ?契約は?」
「契約は出来るよ、ただ…一度契約した人と再び契約は出来ない」
「……そうか」
「それに今の瑞樹は俺のあげた力が使えないから、身を守る術がないんだよ」
そうだ、指輪がないから契約していない状態になるのか。
なら昨日のような力は出ない、普通の人間になったという事なのだろう。
玲音は心配してくれているんだ、いつ指輪が戻るかも分からない状態でフラフラ出歩くのは危険だ。
飛鳥くんは俺と契約すれば守れるかもしれないと言っていた。
まだ飛鳥くんと英次とは契約していないから新たに契約出来る筈だ。
しかし玲音は飛鳥くんの言葉に呆れたような大きなため息を吐いた。
「あのねぇ、瑞樹の契約は俺達が力を与えてその力が瑞樹の力になるんだよ…吸血鬼の血が薄い元人間と、人間と大して変わらない力しかない魔法使いが瑞樹と契約したってプラスにもならないよ」
「じゃあどうするんだよ!」
「これはお互いの気持ちがないと成立しないからね、今のところ候補はいなさそうだし…しばらく瑞樹は単独行動しない事、いいね?」
「分かった」
今の俺は自分の身が守れない、玲音の言葉に従うしかなかった。
とりあえず放課後紅葉さん達とバンドの練習に行くと言うと玲音も着いてきてくれるらしかった。
昼も皆と食べる事を約束して、俺と英次…玲音と飛鳥くんはそれぞれの校舎に向かった。
まるでSPのように大袈裟に守ってくれている英次には悪いが、歩きづらい。
※?視点
俺は子供らしい少年時代を送った記憶はない。
いつだって目の前に写るのは真っ赤な光景だった。
「お前は我が一族の貴重な後継者だ、次期王になるために殺せ」
吸血鬼の狂った貴族の奴らから教わるのは、魔界の頂点に立つための威厳……魔法使いや人間を殺す事だ。
俺は死体以外の人間は見た事がない。
まるで洗脳のようにずっと人間は敵だと心に刻まれていたから…
それが当たり前だと思っていた…俺は正しいと思っていた。
元々心なんか壊れていた…狂った奴らに狂わされた。
母は幼い頃に誰かに殺されて、父はなにかに怯えて俺を貴族達から隠そうとする。
でもすぐに見つかってしまう、それをいつも他人事のように見ていた。
だけど、そんな俺は一人の人間と出会った。
彼は家族にも周りにも存在を認めてもらえなかった……俺と同じだ。
そんな彼に惹かれるのはあっという間だった。
そして俺と架院は彼と約束したんだ。
『大きくなったら君を鳥籠から出してあげる、そして結婚しよう!!』
姫の事を知らなかった俺達は指切りをした。
嘘を付くつもりはない、何処にいても必ず探しだして嫁にするつもりだ。
しかしあの狂った奴らはそう簡単に許してくれなかった。
すぐに人間の世界に行った事がバレて、部屋に軟禁された。
従者は心配そうに俺を見ていた事はよく覚えている。
いつも挙動不審で頼りない、その時だって貴族達に逆らうのが怖くて俺が脱走すると止めていた。
そして狂った貴族の一人が俺の部屋にやって来て聞かされた真実。
「お前が会った人間の子供の記憶を消した、もう会っても無駄だ」
部屋から出してもくれないくせによく言う。
しかし吸血鬼は魔法は使えないから記憶なんて消せない……架院の一族も関わってるだろう。
架院は知っているのだろうか、今となっては聞く方法がないけどな。
俺は、彼と再び会う約束を果たせずに高校に通う年齢になった。
俺達魔族は人間よりも遥かに長い年月を生きられる。
正直魔族の16歳とか人間で言えば産まれたばかりの赤子同然だ。
しかし、赤子といえど魔族は力が強い。
元々強大な力を持ってる次期王など大人よりも勝る。
それに見た目も20歳までは人間と同じ成長だから人間と同じ学院生活をしても支障はないだろう(そこから時が止まったように全く衰えない)
俺はとある理由で学院に行かなくてはならなかった。
彼と会う日が遠のいてしまうと思ったが、必ず迎えに行くと心に誓ったから三年間なんてあっという間に感じた。
架院と再会したのは入学式の時だった。
お互いすっかり変わってしまったが、一目で分かった。
しかしお互い他人のフリをする事に決めていた。
吸血鬼と魔法使いは本来敵対同士だ、昔のように仲良くは出来ない事は分かっている。
そもそも恋敵なんだからする必要もない。
俺は架院と違い、吸血鬼の次期王という事をあえて伝えなかった。
俺はバレても平気だと思ったが、うるさいのがいるから仕方ない。
それに今は良かったと思っている、森高学に付きまとわれたら最悪だ。
でも、それももう終わりだろう。
森高学が吸血鬼の次期王を探し回って大騒ぎをしているという。
本当に面倒だ、でもバレたらさらに面倒な事になる。
架院の奴、あの猿に首輪付けとけよな。
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